散歩する魔王

「山井ちゃんと相澤ちゃんコンビと戦ってちょっと走ったぐらいか……自分で言うのも何だけど、いやー惚れ惚れしちゃう強さだね………」


今し方軽くひねり、地面に倒れ伏す山井と相澤を横目に浪埜は柔軟のために手首を揺らし、ぐっと背伸びをする。



「…………………痛ぁい……」


「チッ…………ぜぇ……ぜぇ……………腹立つぐらいバケモンね。」


「お、褒め言葉どーも。」


倒れる山井が吐き捨てるように出した言葉を、めざとく聞き耳を立てていた浪埜が快活そうに笑う。


「うーん、やっぱり折角強くなったわけだし………戦うとしたら、梔子ちゃんか、柊ちゃん……若しくは立科ちゃんかなぁ。」


「風の夜に〜馬をかり〜かけりゆくものあり〜♪」


次の相手を決めると、浪埜はまた歌を口ずさみつつ、ゆったりと歩いていく。



「褒めてないっての………それにしても、シューベルトの『魔王』って…… はぁ、つくづく腹立つわ。」


遠のき、小さくなっていく浪埜の背を眺めながら山井は苦々しそうに呟いた。


ーーーーーーーーーー


「お待たせしましたー。ごゆっくりどうぞー。」


3か4人掛けの机にずらぁっと賞品が並ぶ。

もう机に隙間は点々としか無く、そこそこの範囲を陣取っている端のメニューが少し気まずそうだ。


「じゃあ、いただきます。」


「………あ、うん。」


出来立て熱々のメニューをこぎみよくスイスイ口に放り込んでいく柊さん。

良い食べっぷりだ。こっちがお腹いっぱいになってくる。


「……結局、8個しか見つからなかったね。」


ペペロンチーノをフォークで巻きながら、何となく呟く。


「食べ終わってから、また探せばいいんじゃないですか?」


「かもね。」


巻いたぶんを口に入れる。

鷹の爪が部分的にかたまっていたらしい。

辛い。


水に手を伸ばそうとした時、ガランと扉が開き、ボクと柊さんの机へ足速に誰かが近づいてきた。


ーーーーーーーーーー


「うーん。こう、いざ人を探そうと思うと見つかんないもんだね。ちょっと休むかな。」


今さっき倒した気絶中の魔法少女を公園のベンチに寝かせてやり、自分も横のもう一つの方に腰掛け、タバコを吸う。


「やっぱり携帯捨てたの失敗だったかなぁ」


そんなことを考えてぼけっとしていると、もうタバコの火が指に直かかる程まで吸い進んでいたことに気付き、吸い殻入れを出そうとポケットに手を突っ込むが吸い殻入れは見つからない。


「あちゃー、さっき吉永ちゃんと前野ちゃんと戦ったときにでも落としたかなぁ。仕方ない。喫煙所探すかぁ。」


浪埜はタバコの吸い殻を手に持ちながら、公園内をうろうろするも無く、目と鼻、いや口の先ほどにある別の公園へ向かった。


「お、こっちにはあるじゃん。ラッキー。」


吸い殻を置かれた喫煙台に捨て、顔を上げると、偶然お目当ての人物が視界に入り、ニヤッと笑った。


「………ラッキー。」


浪埜は軽い足取りでそちらへ向かった。


ーーーーーーーーーー


足速に近付いてくる人物が誰か見ようと、視線を斜め上に上げる。


「これは奇遇ですね、梔子さん。柊さん。」


杉崎さんだった。


「こんにちは。杉崎さんも座ります?」


「お、良いんですか?では、柊さんのお言葉に甘えて。」


依然として机の上はギチギチなものの、ソファ式の椅子は空いている。

ボクが奥に詰め、杉崎さんがそこに座る。


「………メニュー見る?」


「いえ、大丈夫です。ここではガッツリとミックスグリル一択と決めてるので。」


「あー、ミックスグリルも美味しいですよね。」


「もし良ければ、柊さんにも少し分けますよ。」


「いいんですか。やったー。」


どこまで食べるんだ………ボクは柊さんの大食いぶりに苦笑した。


ーーーーー〈立科side〉ーーーーー


「見ぃつっけた。」


高架下を歩いていると、後ろから声をかけられました。


どなたでしょうか。

声の大人びた具合的にクラスメイトの方達では無さそうですし……


振り返るとそこには浪埜さんと言ったでしょうか……魔法少女課の方が居ました。


「魔法少女課の方が私に何の用ですか?」


「あー、ごめんごめん。私、魔法少女課の人間じゃないんだよね。」


「……そうでしたか。では何の御用です?」


そう尋ねると、浪埜さんはどう答えようか悩やんでいるのか頭を掻きます。


「うーん、説明しにくいんだけど、まぁ、これで察してよ。」


「っ!?」


そう言って浪埜さんが私の前に投げたのは叩きのめされた1人の魔法少女でした。


「分かってくれた?」


「……はい。私の講義を受けたい…ということでお間違いないですね。」


「ま、そんなとこ。」


不敵な笑みを浮かべる浪埜さん………何かは分かりませんが…とてつもなく不気味……これは危険そうです。

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