未知の花(1)

「あはは、もしそうだったらごめんなさい。」


黒髪ショートの女子高生は今し方まで暴れに暴れていた似非ギドラの横で、あっけからんとしている。

 


「あなた……誰?………何者?」


「柊 未知花。吉沢高校の2年です。」


目を細め、ナイフを構える絹川さんの問いに、黒髪ショートの女子高生、柊さんは平然と答えた。


「そう……未知花さんって言うんだね。」


「はい。あ、魔法少女の皆さん。もし良かったら、このヴェイグリア……貰っちゃってもいいですか?」


ガラス玉みたいな透き通る瞳でじっと絹川さんを見つめ、ティッシュを借りるみたいなニュアンスで、さらっとおかしなことを言い出した。



「………変なこと言うんだね。」


「そうですか?あ、そっか!確かヴェイグリアを倒すと報奨金が貰えるんでしたよね。それを気にしてるなら大丈夫ですよ。ちょっと残しときますから。」


時空が歪んでいるのか、そう思いそうなほどに絹川さんと柊の話は噛み合っておらず、テンションもどこか違いすぎておかしい。


「………貰って……どうするの?」


「えっと………どう答えたらいいんだろ………うーん……あっ!…分かりやすく言うとRPGのアイテムドロップみたいなモノですよ。私の力でこのヴェイグリアを吸収するとパワーアップできるんです。だから、ねっ?お願いできませんか?」


ねっ、ねっ、と手を擦り合わせてペコペコお願いする柊さん。


絹川さんはそんな彼女へ、一気に足へ魔力を溜め、柊さんへ肉薄し、飛びかかった。


「いやぁ、随分な返答じゃないですか?」


「ヴェイグリアなのかは分かんないけど、あなたは危ない!」


柊さんはその攻撃を読んでいたかのように黒い霧でナイフを押し留める。


「うーん、どうしても納得してもらえませ…痛いっ!」


絹川さんはナイフで霧と鍔迫り合いをしながら、器用に柊さんの周囲のモヤの隙間を縫って脇腹を蹴飛ばした。


地面へ2回ほどバウンドし、ごろごろ転がった柊さんは立ち上がると、スカートの泥を手でパタパタ払い、一気に黒い霧を放出し、似非ギドラをどんどん食らっていく。


「強いですね……ピンク髪の魔法少女さん。それに、そっちの外ハネ茶髪の長身お姉さんもきっと強い、でもそれ以上に一番強いのはそっちの巨乳の白髪お姉さん……。」


ニヤッと笑う柊さん。

彼女の周囲に漂う霧は、先程よりも一層ドス黒くなっていた。


「お名前、教えてくれませんか?」


「私は絹川 鈴………こっちは杉崎 聖䜌さんと梔子 真白さん。………でも、名前なんて聞いてどうするの?」


「今度戦う時のためにね、覚えておきたくって。」


「そんな機会……来ないよっ!」


ーーーーーーーーーー


「ははは、本当に強いですね!前に戦った魔法少女とは全然違います。」


二、三発顔を殴られ、鼻血を垂れ流しながら柊さんはニヤニヤ笑う。


その顔は絹川さんと戦ってるのが楽しい、そう思ってる証拠だろう。


「未知花ちゃんこそ、強いよ。確かに強い………でも、どうして戦おうとするの!」


絹川さんは押し寄せる黒い霧を打ち払いながら、柊さんになぜ戦うのか尋ねた。


「理由ですかぁ?そんなの決まってるじゃないですか!簡単ですよ、スリルです!ス・リ・ル!魔法少女と戦うのなんてっスリル満点すぎますっ!」


「そんなの意味分かんないよ!っ!!」


ペラペラ喋りながら黒い霧をトゲのように幾つも飛ばす。

絹川さんはトゲの回避には成功したものの、死角をついて霧から飛び出した柊さんに虚をつかれ、霧を纏わせた黒い拳を左腕へ直にくらってしまう。


「折れたんじゃないですかぁ、その左手……っぎぃ!?」


ニヤリと笑い、赤く腫れ、折れたと思しき左手の方に顔を出した柊さんの額を絹川さんの左腕から繰り出された裏拳が捉えた。


「腕が一本折れたぐらいで舐めないでください!」


「ははは、スゴい!スゴい!やっぱり強いですよ、絹川さぁん!」


額から噴き出した血を楽しそうに拭い、また柊さんは霧の攻撃を仕掛ける。


何度も何度もぶつかっていく絹川さんと柊さん。

彼女たちの圧に流されたように、晴天だった空は黒く濁り、やがて霧雨がボクたちをうち始めた。

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