全身魔装


「………見ない顔だけど、アナタ達も魔法少女なの?」


「はい。初めまして、絹川さん。杉崎聖䜌です。」


「…………梔子真白です。」


「そうなんだね。聖䜌さんに真白さん、よろし!!」


拍手してたボクらが魔法少女だと知ると、さっきまでのキリッとした表情から一転、絹川さんはにこやかで、年相応の高校一年生らしい爽やかな雰囲気になり、ボク達と握手をしようと手を伸ばそうとした瞬間に、まだ健在の触手玉が触手を鞭みたくしならせ、勢いよく振るい、絹川さんの額を強く強打した。


突然のことで一切のガードもできずに吹っ飛ばされた絹川さん。


そのままぶっ飛ばされながらも、絹川さんは攻撃された瞬間にすぐ頭へ伸びた触手をがっしりと握っており、途中で体勢を立て直すと、勢いそのままに水泳のターンみたく壁を蹴って元の方へ水平に跳ぶとともに握った触手を勢いよく引っ張り、自らの方へ突っ込む触手球を、ナイフで切り裂いた。


「魔法少女との挨拶すら邪魔するなんて……やっぱりヴェイグリアは敵だね。」


絹川さんは、崩れ去る触手球を見下すように呟く。

その額からは血が流れていて、衝撃を和らげることなく壁を蹴ったからか左足が赤く腫れている。

痛そうだ。しかし、絹川さんには少しも痛がる素振りが無い。


チラッと彼女を見てみる。


ーー絹川 鈴ーーーーー魔法少女ーーー15年間の休眠状態にーーその能力は痛覚遮断でーーーーー体に傷を作りながら怯むことなくーーー当時のーー『血濡れの魔法少女』と呼ばれーーーー



あぁ、通りで。

………………それにしても物騒な通称だ。



「デカいのが起き上がりますよ。」


杉崎さんの声で似非ギドラの方を見ると、真ん中の頭はまだふらつきながらも立ち上がり、左側の頭が吠え、えづくよつに喉から触手球を2匹吐き出した。


見ていて、こっちの喉が痛くなりそうだ。


「触手球を倒してもキリがないみたい………真白さん、聖䜌さん、触手球に注意しつつ、3人であの竜みたいなヴェイグリアを倒そう!」


はぁ、簡単に言ってくれるなぁ………


ーーーーーーーーーー


3人になって多少はボク達が優勢になったものの、以前として似非ギドラには大きなダメージを与えられていない。

左の頭から吐き出される触手球が存外に邪魔どからだ。


吐き出させれる触手球数匹を相手にしていると上から急にお叱りの声が届いた。


「真白さん、どうして手足しか変身してないの!全身で変身して!!」


「……いや、」


「いいから!早く!」


傷だらけになりながら、鬼神のごとく大立ち回りを見せる絹川さんの声は少し高く、可愛らしいものだけど有無を言わせぬ強さがあった。


……仕方ない。変身するしかないかぁ。

基本的に部分変身しかしないから、全身での変身なんて初めてだ。

上手くできるだろうか。



体全体へ少しずつ魔力を纏わせていく。


白いロングブーツと、長手袋……ここまではいつもと同じだ。

問題はここから………


魔力を高め、自分の頭の中にある変身のイメージを自分なりに具現化していく。



白で統一された装飾もフリルも少ない白いウェアに、少し長めのスカート、そして胸の中央に添えられた蝶にも似たベージュ色のリボン細工、似たもう少しサイズの大きなものが背中にも一つ。


ボクらしい味気のないコスチュームだ。

でも、まぁ……………結構………案外、魔法少女らしいじゃん。


触手球の飛ばす触手をかわし、勢いよく壁を走り、似非ギドラの左の頭の頬へ思いきり飛び蹴りをくれてやる。

左の頭がぐわんと揺れた。今だ。


「おぉー!梔子さん、格好いいですよ!」


「杉崎さん、絹川さん、……見えた!三叉になった首の根元が弱い!」


「分かりました!絹川さん頼みました!」


「うん!てりゃぁぁあ!」


ボクがそう言うと、杉崎さんがバレーボールのトスの要領で絹川さんを上空へ押し上げ、触手の包囲網を抜けて似非ギドラの懐へ入り込んだ絹川さんがナイフを首の根元を勢いよく突き刺した。


似非ギドラは呻き声を上げながら、もたれかかるように倉庫の壁を壊して後ろへ倒れる。




「やりましたね、梔子さん!……しかし、梔子さんの全身魔装を初めて見ましたが………いやー【白の魔法少女】の通り名に相応しいスタイリッシュさですよ。ほら、ピース。」


「………やめてよ、恥ずかしい。」


杉崎さんがボクの変身をこれは良いものを見たとスマホで撮ろうとするものだから、スマホを手で押し込める。



「っ!……真白ちゃん、聖䜌ちゃん、まだだよ!」


絹川さんの強い声でそちらへすぐに向くと、まだ健在の右の頭がこちらに首をもたげ、がぁがぁ五月蝿く唸り、立ち上がろうとする。


タフだ。面倒くさいなぁ………



右の頭の攻撃に備えようとしたその時、右の頭の首に黒い霧が突如として覆いつき始めた。


「………何、あれ……霧のかかった部分がどんどん削れてく……」


黒い霧が覆った部分が次々に削られたように無くなっていく。

まるで捕食だ。


「新しいヴェイグリアかも……真白ちゃん、聖䜌ちゃんも警戒して!」


絹川さんがナイフを構える。

その額には汗が流れる。突然のことに緊張しているらしい。




「あれ、もしかしてコイツと戦ってるの邪魔しちゃいました?」


しかし、そんな緊張を裏切ってひょっこりと姿を見せたのはだった。

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