ヒロインは再び
「タクシー代かなり高く着きましたね、後で樋口さんへ請求しましょう。」
杉崎さんの軽口に特に何も返さず、絹川さんが保護された場所へ向かう。
そこは、大きめの倉庫で、すでに屋根の一部が抜け落ち、柱や壁の節々にヒビが入っている。
急いで中に入ると、中央に封じ込められた絹川さん、そして封印を壊そうと暴れる、2体の触手がうじゃうじゃ生えた球体と、それに特撮のゴジラに出てくる……あの………3つ首のドラゴンの…あぁ、何とかギドラみたいな見た目の竜型ヴェイグリア。
どうやらボクらが一番乗りだったらしい。
絹川さんを見ると、攻撃を受けてなのか、それとも普通に遅延が解除されてきているからなのか、水晶のようなその封印はパラパラとカケラが落ちるようにして壊れかけている。
「いやぁ、タクシーで来て正解でしたね。」
「……うん。ボクがあの似非何とかギドラみたいなの担当するから、触手球はお願い。」
「分かりました。では梔子さん、行きましょう!」
樋口さんたちを待ちつつ、ボクと杉崎さんはヴェイグリアの足止めにかかった。
ーーーーーーーーーー
絹川さんの元に到着して10分。
状況は依然変わらずで、2人で
ーーー爪は鋭くないもののーーその巨大にーーーその皮膚は鼠色でーーブレスはーーー喉元を光らせーーーー
ーーーーーーー触手を伸ばしてーーーその体は柔らかくーー触手は体に比べて硬くーーーーー
「………厄介だなぁ。やっぱり2体同時じゃ見にくい。」
似非ギドラと戦いながら似非ギドラ、触手球の両方を見ようとするけど、やっぱり2つ以上のものを、それもヴェイグリアだと見えにくくて仕方ない。
「うーん、鬱陶しいですね。この触手は。」
杉崎さんも自己再生の能力を使いながら、飛んでくる触手に臆さず戦ってるみたいだけど、2対1はどうしてもやりづらそうで、攻撃しあぐねている。
早く樋口さんが来てくれれば、そう思っていると樋口さんから電話がかかってきた。
似非ギドラの振り回す尻尾を避けつつ、電話に出る。
『もしもし!』
「もしもし。樋口さん……今、2人で戦闘中です。あと何分ぐらいで来れそうですか?」
『それが……渋滞にはまっちゃって!今、車から降りて走って向かってるからまだ15分はかかるかも。ごめんなさい!』
「………分かりました。樋口さん、まだ15分ぐらいかかるって……」
「本当ですか!……いやー、まいりましたね。後でタクシー代多めに請求しましょうか。」
電話を切り、まだ樋口さんの合流に時間がかかることを伝えると、杉崎さんは触手をいなしながら辟易とした表情になる。
そんなことを話していると、目の前の似非ギドラが喉を青く光らせる。
あー、ブレスが来るなぁ。
取り敢えず、ブレスを吐こうとした直前で脇へ飛び退く。
…………あ、しまった
よけた所で自分が絹川さんの斜線上に居たことに気付いたけど、時既に遅し。
回避した似非ギドラのブレスが絹川さんの封印に直撃した。
時間の封印は粉々になり、絹川さんは現実の時間の流れに戻ったものの、まだ目を覚ましておらず動かない。
似非ギドラは頭の一個を伸ばし、そのままブレスの体勢へ。
ボクと杉崎さんはすぐに助けに行こうとするも、触手球2体に割って入られ阻止される。
「また…!……まったくしつこいですね……しつこい人はモテませんよっ!」
「………っ、絹川さん!」
似非ギドラの口が青白く光り、ブレスが放たれた。
やってやったぞとしたら顔に見えるような表情をした似非ギドラは、すぐに怪訝そうにちいさくあ唸った。
ブレスの先に絹川さんはいなかったのだ。
「梔子さん、あれ!」
杉崎さんが上を指差す。
そっちを向くと、壁を利用し、似非ギドラの頭上へ絹川さんが跳び上がっているのが見えた。
「マギア!!」
宙に浮いた絹川さんがそう叫ぶと、瞬間的に魔力が全身を纏い、体が一気に閃いて一瞬で魔法少女へ変身する。
掛け声を起点とした変身………ボクたち第二世代ではしてる人は殆どいない。何せ、魔力を一気に放出するのは燃費が悪いから。
だからこの変身法は第一世代特有のものだ。
変身した絹川さんはそのまま落下の勢いを利用して、似非ギドラの中央の頭の脳天に踵落としを決めた。
似非ギドラもこれにはたまらず、前のめりに倒れる。
「魔法少女りん……参上です!」
絹川さんはそのまま綺麗に着地し、ポーズをバッチリ決めた。
さながら魔法少女アニメの登場人物だ。
「おー!これぞ魔法少女って感じですね。」
感心したように杉崎さんがパチパチと拍手したので、ボクもなんとなく拍手した。
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