バッドダイミング
結論から言うと時間遅延の魔法少女、東 沙織は運の良いことにすぐに見つかった。
しかし、ボクと杉崎さんはここで今日の運を使い果たしてしまったらしい。
比較的呑気にしてたボク達はこの後、とんだ厄介に巻き込まれるわけだけど、それは順を追って話そうと思う。
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廃業したカフェを後にしたボク達はヒントもないので、取り敢えず街をぶらぶら歩いて彼女に繋がる手掛かりを探していると、あるチラシが目に入った。
〈ピアノ教室 入会者募集中♪ 講師:東 沙織 TEL……〉
「………これ、どうだと思う?」
「うーん、チラシを見るに教室は近いようですし行ってみましょうか。」
まぁ、当てがあるわけでもないしね。
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「初めまして、東です。お二人は入会希望者………なんて雰囲気じゃないですね。」
そんなこんなで訪ねたピアノ教室。
出てきた講師の女性は見た感じ歳は30ぐらいで、物静かそうな雰囲気を醸し出している。
「年齢もあの情報から推測した通り……この人で当たりっぽいですよ。杉崎さん、お手柄です!」
杉崎さんが小声でボクに囁き、ボクもそれに頷く。
「東さん、もし違ってたらすみません。あなたは時間遅延の魔法少女……ですよね?」
杉崎さんの問いに東さんは、どう返答するか考えているのか暫く黙り、観念したように深く溜め息を吐いた。
「そうよ。私が時間遅延の魔法少女、東 沙織。魔法少女だなんて人に名乗ること自体もう10年ぶりだけどね。」
自分が時間遅延の魔法少女だと答える東さん。
その表情や声音はどこか物憂げだ。
しかし……こんな早くに見つかるなんてボクたち運が良い。
外のうだるような暑さの中、長時間歩くという苦行をせずに済んだことを少し嬉しく思う。
「東さん、私と梔子さんは魔法少女課の使いで来まして。単刀直入に聞きたいのですが、絹川 鈴さんのことと、あと、あなたが絹川さんへかけた強力な魔法遅延についてね。」
東さんは表情を曇らせながら、気を落ち着かせるように机に置いたマグカップでブラックのコーヒーを飲む。
苦いわね、そうボソッと呟き、東さんは決心がついたのか絹川さんのことを話し始めた。
「絹ちゃん……絹川さんは私の幼馴染で、人一倍他人に優しくて、責任感が強い子だったの。
だから、魔法少女になった時はオドオドしてた私とは対照的に嬉しがってたわ、もっと人の役に立てるって………。そこから、絹川さんはヴェイグリアとの戦闘にのめり込んでいったの、本当に強かったから。
名前を知ってるってことは少しは聞いて知ってるでしょ、絹ちゃんの強さ。」
「お噂はかねがね、初期の第一世代では1、2を争うほどの強さだったそうだと聞きました。……ヴェイグリアとの戦闘後に突然行方不明になったというのも。これって、東さんが強力な魔法遅延をかけたってことですよね?」
「……そうよ。あの子は魔法少女であり過ぎた。自分のことなんていつも省みないでヴェイグリアと戦って………絹ちゃんの体はいつも生傷が絶えなかったの。このままじゃいつか必ず死んでしまう、同じ魔法少女として、いえ、それ以上に幼馴染として彼女をこれ以上戦わせるわけにはいかない、そう思ったの。だから、自分の能力の全てを使って絹ちゃんの時間を限りなく遅くしたの。」
東さんはそう言ってコーヒーを飲み終えると、先程はまでの少し陰鬱とした表情をころっと変え、くすりと微笑んだ。
「それにしても……運命って不思議ね。時間遅延が解ける日に丁度絹ちゃんを探しに来る人が居るなんて。」
「あの封印が解けるのって今日なんですか!」
「ええ、そうだけど。」
「これは良いことを聞きました。早速樋口さんへ連絡を」
杉崎さんが言葉を言い切る前に、ボクの電話が鳴った。
誰からかを見る。樋口さんだ。
「もしもし」
『もしもし、樋口だけど頼んでた魔法少女のことなんだけど』
「………それなら誰か分かりましたよ。封印されてた方も、時間停止の、時間遅延の」
『ごめんなさい、今はそれどころじゃなくて!今、封印されてる魔法少女が保護されてる場所にヴェイグリアが三体同時に出てきたの。場所の住所はメールに送ったから、二人ともすぐにそこへ向かって!私も向かってるところだから。』
樋口さんは急足で要件を言うと、すぐに通話を切った。
よっぽど急いでるらしい。
「電話、なんでしたか?」
「絹川さんの所にヴェイグリアが三体だって。」
「おお、それは一大事ですね。すぐ行くとしましょう!あ、東さん。紅茶ご馳走さまでした。」
封印、いや時間遅延が解除される日に丁度ヴェイグリアが集団で現れるなんて………最近は本当に付いてない気がする。
厄除けの神社にでも行ったほうがいいのかもなぁ……
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