未知の花
猛暑のお使い
「時間停止の魔法少女を探してほしい、ですか。」
この前の六月祭…… 翠蘭学園の文化祭の一件から一月と少しが経った7月下旬。
少し早く夏季休暇に入って怠けた生活をしていたボクは、丁度定期試験の終わったらしい杉崎さんとともに樋口さんへ呼ばれ、魔法少女課の応接間へ通されるなり、水晶らしきものに封じ込められた魔法少女の写真を見せられ、上記のことを頼まれた。
「ええ。つい3日前、魔法少女から何らかの時間停止能力を受けて、動けない状態にある"第一世代"の魔法少女が見つかってね。それで、その魔法少女探しに私たちの管轄からも何人か職員を出してほしいってことなんだけど、今手が空いてるのが私だけで。こんなこと学生のあなた達に頼むべきじゃないとは思うんだけど、お願いできない?」
申し訳なさそうに頼み込む樋口さんへ、ボクがYESもNOも言葉を発する暇なく、杉崎さんが勿論ですと早々にオッケーを出してしまった。
杉崎さんと居るとつい流されてしまって仕方がない。
ボクは面倒くさいなと思いながら、出された冷えた緑茶を啜った。
「しかし珍しいですね。こう言ったことの窓口があの浪埜さんではなく樋口さんだなんて。」
何の気なしに杉崎さんが呟く。
確かに…。
こういう面倒ごとをボクらにふってくるのはいつも浪埜さんだというのに、今日はボクらの前に姿を一度も見せていない。
「あぁ、ふぁぁ〜………それはアイツが…ヴェイグリア対策本部の仕事に借り出されてるからだよ………んん〜……ふぁ……」
ボクらのいる応接間へにゅっと顔を覗かせ、欠伸しながら杉崎さんの疑問へ答える猫背の金髪女性。
あれは……えっと、薙さんだったっけ。
「薙さん!どうかされたんですか?」
「ふぁぁ〜、樋口さんさ、浪埜見てない?呼びに来たんだけど連絡付かなくてね……知らない?」
「先輩ですか?ここ2日はウチに来てないですね。てっきり、対策本部の方へ居るのかと……」
「うーん………ふぁ、ぁあ〜………ん〜、一人で勝手にふらついてんのかな、アイツのことだし……………ふぁぁ〜、浪埜から連絡あったら私にも連絡ちょうだいね〜……」
丸まった背中でぎこちなく背伸びして、薙さんは部屋から出て行く。
「薙さん、整骨に行ったらしこたま怒鳴られそうですねぇ」
杉崎さんの一言に樋口さんは吹き出すように笑い、すぐさま取り繕うよう咳払いした。
ーーーーーーーーーー
「………快諾したはいいけど、どうするの?」
魔法少女課から出て、横の杉崎さんにアテがあるのか尋ねる。
外は茹だってしまいそうな暑さ。
こんななかを闇雲に歩き回るのは勘弁願いたい。
「安心してください。一人、知ってそうな方が居ます。こう見えても、交友関係は割と広いんですよ。」
「……確かに、意外だね。」
「最後のところは笑ってツッコむところですよ。ははは。」
「……………」
「………行きましょうか。」
「……うん。」
取り敢えず、ボクらは杉崎さんの言う知ってそうな人物へ会いに行くことにした。
その間、ボクと杉崎さんの周りには蝉時雨と気まずい空気がどこか纏わりついていた。
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