祭りの終わりに
「いやぁ、みんな派手にやったねぇ。」
浪埜さんはタバコをふかしながら、壊れた軽音楽部のコンサート舞台を眺め、面白そうに呟いた。
「すみません、浪埜さん。」
「あぁ、気にしなくていいって。ただ、明日から周りは騒がしくなるかもね。」
ほら、そう言って茉莉さんとボクに携帯を見せる。
画面にはSNSのタイムラインが写っており、そこには、今日の戦闘を撮影した動画が何本も上がっていた。
「まっ、あれだけ人の多い文化祭で戦えばこうなるよ。」
浪埜さんはケラケラ笑い、動画を見た茉莉さんは週明けからの学校を気にしてか少し不安げな表情になる。
ボク自身も、動画を見た最初は何も思わなかったけど、次第に頭の中に立科さんや中根さんのことが浮かんで、ほんの少し憂鬱になった。
「でも…映像じゃなくて生で見たかったなぁ。梔子ちゃんたちが戦ってるの。」
「なに呑気なこと言ってんの〜、浪埜。この子らが派手に戦うほど仕事増えて寝る時間無くなるってのに……ふぁぁ。」
動画を再生しながらボソッと呟いた浪埜さんの後ろからひょっこりと猫背の金髪女性が顔を出し、しゃがれ気味の低い声で、注意とまではいかない小言を浪埜さんへかける。
「いやいや、
「なに言ってんの。人間……ふぁぁ………最低12時間は寝なきゃベストパフォーマンスには足んないよ。」
大きな欠伸を何度もする夜衣さん。
初めて見る人だ。
彼女も魔法少女課の人かと思ったが、根拠はないけど違う気がする。
勿論、職員を全員知ってるわけじゃないけど、ここまで目立つ人が居ればまぁまず忘れはしないだろうし。
「ふぁ〜。ん〜、君が【白の魔法少女】だっけ?」
そんなことをぼーっと考えていたボクの顔を、
夜衣さんは欠伸をしながら覗きこむ。
「噂通りかは知らないですけど、まぁ、一応。」
「へぇ〜………君さ、はぁ〜、私の下で働いてみる気ない?」
夜衣さんは眠そうに目を擦りながら、一枚の名刺をボクヘ差し出した。
受け取って、内容を見る。
ヴェイグリア対策本部-第二対ヴェイグリア行動班班長。
やっぱり魔法少女課の職員じゃないらしい。
通りで見たことない筈だ。
「ヴェイグリアと戦うの……ふぁっ…専門の部署なんだけど、どう?」
「……遠慮しときます。」
「あ、そう。分かった。」
えらく淡白だなぁ、そう思ったのが顔に出てたのかもしれない。
「まぁ………んん〜…眠………浪埜から、君のこと聞いてたから、端から入らないだろうなって思ってたから……あ〜、駄目だ……ふぁぁ……」
薙さんは気怠げにそう答え、ミントタブレットを5、6個一気に飲み込むも、まだ眠気が治らないらしく目を擦る。
ここまで来ると、何かしら睡眠系の障害じゃないのかと思ってしまう。
「あー、そうだ……緑園寺 茉莉さん………ふぁあ〜……妹の美菜さんが来てるよ。」
「本当ですか!?」
「うん………ほら、美菜さん……出てきていいよ〜。」
「お姉ちゃん!」
「美菜!良かった……本当に良かった……!」
茉莉さんは幻覚が解け、調子を取り戻したらしい妹さんを抱き寄せ、目を潤ませながら頭を撫でる。
「いやぁ美菜さんが回復して良かったです。しかし、苦難を乗り越えた姉妹の抱擁……感動しますねぇ。」
杉崎さんがしみじみ感じ入ったように呟く。
しかし、その顔は感動すると言いつつ、いつも通りの微笑みを浮かべたものから変わらない。
しかし……杉崎さん、いつの間に横に立っていたのか。
ボクは困惑しつつ、今いる場所から人一人分距離を空けた。
「梔子さん、杉崎さん、本当にありがとう!感謝してもしきれないわ……」
茉莉さんは潤んだ目を擦り、ボクらの手を握ってありがとうと頭を下げる。
「何かお礼をさせて。」
「……そんなに気にしなくていいよ。」
「梔子さんの言う通りですよ、困った時はお互い様です。」
「いえ、それじゃ私の気が収まらないわ。」
「本当に大丈夫だから……」
「でもっ!」
そんな押し問答が続くなかで、誰かのお腹が鳴った。
目を見合わせるボク達。
「夜ご飯には少し早いかもしれないけど、ファミレスかどこかでご飯を奢らせて。」
「……………それじゃあお言葉に甘えて」
「では、ご馳走になりますね、茉莉さん。そうだ。折角ですし、美菜さんもご一緒にどうです?美菜さんの快気祝いも兼ねて。」
「……いいんですか?」
杉崎さんの言葉に、茉莉さんの後ろに隠れるように立っていた美菜さんがオドオドしつつ、ボクらを見る。
「勿論!」
「……いいよ、別に。」
「美菜、良かったわね。」
「うん…!」
こうして四人で夕飯を食べることになった。
今まで縁がなかったけど、こう言うのが打ち上げ?なのかもしれない。
それなら、まぁ、打ち上げって良いものかもね。
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