喧嘩は(文化)祭の花(3)

幻覚、スケットの中根さんと香中さんという切り札を失った向井さんと、茉莉さん。


もう勝ち負けは明らかだった。

茉莉さんの勝ちだ。


それでも、負けん気で必死に反撃する向井さんだけど茉莉さんには殆ど通らない。


よくまだ戦おうなんて思えるなぁ………

それだけ茉莉さんに対しての嫉妬が強すぎるんだろうね。

そこまでに至る嫉妬なんてどんなものなんだろうか。


ボクには少しも想像できない。


そんなことを考えているうちに、茉莉さんの渾身の一撃がクリーンヒットしたらしく、向井さんは中庭にあった軽音楽部のコンサート会場に叩きつけられた。


勝負あったかな。



ーーーーー〈杉崎side〉ーーーーー


「あ〜、向井っち、やられちゃったかぁ。」


「おお、流石は梔子さんに茉莉さん。」


「そうですか……授業相手が一人減りましたね。」


「ひぇ〜、私はやられるのゴメンなんでお暇しますね、それじゃあさようなら〜。」


言うが早いか、香中さんは空間を歪め、私たち二人の前に障壁を作り、姿を消してしまいました。


「どうします?」


私がそう聞くと、立科さんはむすっとした表情で


「今日は諦めます。しかし、梔子 真白へ言っておいて下さい。必ずまた来ますと。」


そう梔子さんへの言伝を残し、スタスタ足速に消えていきました。

全くあの子らしいことです。


さて、私も梔子さんたちと合流しましょうか。


ーーーーー〈梔子side〉ーーーーー


「もう諦めなさい。あなたの負けよ、向井さん。大人しく妹の幻覚を解いて。」


軽音楽部のコンサート会場の立て看板へ叩きつけられた向井さんへ茉莉さんが剣の鋒を向ける。


もう向井さんの勝ち目はなくなった。

でも……このまま終わりはしないだろうなぁ。

負けを認められる人ならこんな事になってないし……


「ざっけんじゃねぇ!!………あたしが、向井 雛が負けるわけないだろ!ずっと、ずぅぅっとなぁ、あたしが1番なんだよ!それが当たり前なんだよ!」


もはや取り繕うこともせず、荒々しい本性を剥き出しにして立ち上がり吠える向井さん。


そんな彼女をポカンとした顔で見るバンドメンバー、観客たち。

優しい寮長さん、そんなイメージはもう欠片も無い。そんな彼女を見る目はきっと彼女が望む視線じゃないのだろう。

案の定、周囲へも向井さんは怒りだす。


「なんなのよ!なんなのよ!あんたら、その目はさぁ!!あんたらまでアイツと同じで見るな!万年2位だって馬鹿にすんじゃねぇ!!!」


「何する気なの…!やめなさい!」


一人で癇癪を起こす向井さんを止めに行こうとした茉莉さんを止める。


「梔子さん、離して!向井さんは周りの人にまで手を出す気なのよ!」


「ボクらこの場の全員に幻覚をかけようとしてるんだろうけど………どうせ出来ないし、ほっといていいよ。」


「はぁぁ!!舐めんじゃねぇ!それぐらいなぁ、出来ないわけないでしょ!!あたしは優秀なのよ!1番なんだから!!全員、狂っちまえ!!!」


ボクの安い挑発に乗って、向井さんはその場全員へ幻覚の力を使った。


やっぱり知らなかったんだね………魔法少女の能力にキャパシティあるの。


「はぁっ?な……どうなって…………あ、なんだこれ……ぶふっ!!?」


次の瞬間、向井さんは鼻血をふきだして気を失った。

そりゃそうだ………あれだけの能力を一気に行使し続けたらキャパオーバーになる。



「………」


ボクらも、バンドも、観客も、その場の全員がシーンと静まり返る。


「……悪の魔法少女を倒したクールな魔法少女2人に贈ります!!」


気を利かせたバンドのボーカルがそう言うと、音楽に詳しくないボクでも知ってるJ-popのロックをバンドが演奏し始める。


すると次第に手拍子が多くなり、やがて観客は熱を帯び、歓声が上がった。



………まぁ、確かに……喧嘩は祭りの花かもね

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