喧嘩は(文化)祭の花(1)

迎えた翌日


「美菜……待っててね、お姉ちゃんが絶対に向井を倒して幻覚を止めるからね。」


携帯に入った写真を見て決意を新たにする茉莉さんを横目に、ボクは周りを見回す。

前にも横にも後ろにも人、人、人。翠蘭学園は人でごった返している。

何せ、今日は翠蘭学園の文化祭なのだ。


「向井さんはきっとこの人混みを利用しようというんでしょうねえ。」


杉崎さんが目を細めながら呟く。

相談の時に居なかった人物がどうしてここに居るのだと聞いたが、どうやら茉莉さんに頼まれてのことらしい。


「それに…翠蘭学園の文化祭はなかなか盛大だと言いますし、折角の機会なので体験をとね。」


ニヤリと笑みを浮かべ、キャラメル味のポップコーンを口へ運ぶ。

いつの間に買ったのやら……やっぱりこの感じ、苦手だ。


「梔子さん、杉崎さん、今日はよろしくお願いします。向井を倒すために力を貸してください。」


「それは勿論!ただ……どうやって向井さんを探すんです?……この人混みの中でそうそう姿を見せたりするような真似をするとは考え『あー、あー、3-1の緑園寺 茉莉さん、そのお連れの方、至急体育倉庫の方までお越しください。』………するようですね。」


そう杉崎さんが口にする背後で、校内放送の音声が鳴り響く。声の主は向井さんだ。

茉莉さんの手に自然に力が強くかかる。


「………行くの?」


「ええ。あっちにも何かしらの考えがあるんでしょうけど、行きます。それが向井を見つける最善の手でしょうし。」


茉莉さんの強い意志もあり、ボクら三人は誘われるがまま、体育倉庫へ向かった。


ーーーーーーーーーー


歩き始めて5分、以前廊下は人がその7割を埋め尽くしており、中々体育倉庫への道のりは遠い。


そんな中で、ひょっとこのお面をした三つ編みおさげの女子高生がボクらの前からふらふらした足取りで近付いてきた。


怪しい……なんというか、あからさまな過ぎぐらいに。


ーーーーー香中かなか 胡桃くるみーー魔法少女ーーーバレー部に所属しているものの幽霊部員でーーーーーーー向井ーー


「おっと、梔子さん危ない。」


杉崎さんに横へ突き飛ばされた瞬間、廊下と壁がタイルの目状に光り、杉崎さんの右手から、続いて下から上へ1タイル分の壁と地面が勢いよく伸び、杉崎さんの右脇腹にめりこみ、次の瞬間、アッパーカットの要領で顎を伸びた床にうたれる。

血を吐いて、床へ倒れる杉崎さん。


「杉崎さん!」


「今はこっちを…っ!」


杉崎さんへ駆け寄ろうとする茉莉さんを静止しようとするも、言葉の途中で横から腕が伸び、教室へ連れ込まれる。

お化け屋敷にでも使うようなのか、教室は電気が消されており、分厚いカーテンで日光も遮られて薄暗く、大分見えにくい。


「久しぶりだね。アタシのこと、覚えるかい?」


声がする方に目を向け、能力を使う。


ーーーーー中根ーーーーーーー魔法ーー少女ーーーーー梔子 真白によりーーー


やっぱり暗いから見えづらい。

でも…正体は分かった。


「憶えてるよ。大学の帰りに急に力試しで襲ってきた、中根さんでしょ。中根 紗夜さん。」


中根 紗夜さん………立科さんと同時期に魔法少女に対しての通り魔をしてた一人だ。


「へぇ……覚えてたんだ。なら、好都合ね。梔子 真白!アナタにリベンジするわ!そりゃ!!」


言うが早いか斧を思い切り、床へ叩きつける。

酷い衝撃だ。目が回る。


「見られる前に攻撃すれば、こっちのもんよ!」


自身の能力で身体能力が著しくアップした中根さんは、持ってるのが虫取り網なのかと思うほど、軽々斧を振り回す。


なんとか辺りを見回して斧や中根さんの情報が出るかで攻撃の場所を探って、攻撃を避けるには避けられるけど、ボクも中根さんの攻撃への対処で手一杯で、中根さんを攻めるに攻められない。


どうしようか、そう考えてると、椅子か何かに足を引っ掛けてしまってバランスを崩しかけた。

これは不味い。


「ここdっぐぎ!?」


足のもつれたボクヘ斧を振り下ろそうとした中根さんが突如として脇にぶっ飛んだ。

窓を割って、勢いよく突っ込んできた室外機が脇腹に当たったらしい。

ああ、この能力には見覚えがある。


溜め息を吐くと、丁度イメージしてた通りの人物の声が聞こえた。


「お久しぶりですね……梔子 真白さん。」


「………まぁ、そうだね。立科さん。」


飛んだ乱入者の登場に、溜め息がまた間髪入れず出てしまった。

溜め息をすると幸せが逃げてくなんて言うけど、確かにそうだ。

ボクの幸せは今まさに逃げてったから。

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