【前野視点】幽霊ヴェイグリア(2)

ぷかぷかクラゲみたいに浮かんでるハエ男にポカンとしちゃって動けない私。

それに対して、真紀ちゃんはもう驚きから覚めて変身している。


「あのヴェイグリア、切ってみよっか。」


「え……あ…えと………」


「じゃあ、やるね。」


パッと口にして、10秒ぐらいで真紀ちゃんは向かいの通りの男性の後ろに立って、ヴェイグリアを魔力で具現化した剣で見事に切っていた。


真紀ちゃんの高速移動……やっぱりすごい…!

私の能力とは強さが全然違うなぁ……


ついさっき真紀ちゃんにダメだって言われたのに、駄目な私はすぐマイナス思考の沼に陥ってしまう。

それじゃ駄目駄目!私は頭をぶんぶん振ってマイナス思考から意識を逸らして真紀ちゃんの方に向かう。


「ま、真紀ちゃん!さっきの敵倒せた?」


そう聞くと真紀ちゃんは怪訝そうな顔をして、首を傾げた。


「倒せてない。むしろ、状況悪くなっちゃったかも。」


ほら、そう言って男の人の背中と自分の後ろを指差した。

男の人の背中には切られた筈のハエ男のヴェイグリアがぷかぷか浮かんでて、その上、真紀ちゃんの後ろにも同じくハエ男がぷかぷか浮かんでる。


「ひょぇっ!?……な、なんで?」


思ってもみなかった状況に、下手に息を吸い込んだみたいな変な声が出ちゃう。


「あはは、鶴ちゃんてば変な声。」


真紀ちゃんが笑う。

その後ろをふらふらするハエ男の頭がカタカタ揺れてて、ハエ男にまで笑われてらみたいに感じる。

恥ずかしい。そう思った瞬間に俯いてしまう。

自分の顔が茹で蛸みたく赤くなってくのが分かる。


「うーん、どうしよっかコイツ?……聞いてる?」


「え?」


真紀ちゃんの声で顔を上げるとなんとハエ男が5匹になってた。

どうやら、真紀ちゃんは私が顔を赤らめて悶えてる間にハエ男を何回もまた攻撃してたみたいで、その分さっきみたいに増えたらしい。


変な特性だなぁ。なんだか……


「プラナリアみたいだね。」


「?プラナリア……?」


私の口から零れた言葉を真紀ちゃんは知らなかったみたいで、すぐにスマホで調べだす。

調べ終わると納得したように、ぴったりだね、プラナリア、プラナリアと1人呟いた。


ーーーーーーーーーー


「真紀ちゃんごめん………」


「いいよ、いいよ。それにしても何なんだろうねコイツ。」


あれから、私の超音波とか色々試してみたりしたけど、ハエ男は増えるばっかりで、私は意気消沈していた。


そんな私をあざ笑うみたいに、ハエ男は頭をカクカク小刻みに揺らしながら私たちの周りをふらふら漂う。


どうやったら増えないで攻撃できるんだろ……

頭を悩ませてると見知った顔が遠くに見えた。

梔子先輩と杉崎先輩だ!


そうだ、あんな落ち着いた二人ならきっと解決できるはず!


私はハエ男をぼぉーっと見つめる真紀ちゃんの手を引いて先輩たちの元に走った。

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