不協和音世間話(2)
「梔子さんはいつ魔法少女になりました?」
「確か高校あがる前……」
「それじゃあ私が先輩ですね。私は14の時からなんです。」
この世の魔法少女はいつの間にか、魔法少女になる、というよりなっている。
つまり、ゆるキャラ風生物に特殊な力があるとか何とか言われて勧誘されるだなんてイベントは発生しない。
だから、いつ魔法少女になっただとかを他人と話すことは少ない。
こんな風に世間話のタネとして使われることなんて尚更だ。
実際、ボクもこんな質問初めてだ。
「それじゃあ、初めて魔法少女に会ったのがいつか覚えてますか?」
「………ちゃんとは憶えてない。魔法少女になった後だった気がする。」
嘘をついた。
ボクは魔法少女になる前、記憶もおぼつかない小さな頃に一度だけ魔法少女に会ったことがある。
もう、どんな
けど、それでもこの朧げな記憶がボクにとって悪夢なことだけは確かだ。
「………私はよく覚えてますよ。私の場合、魔法少女になる1年前でね、魔法少女がヴェイグリアと戦って、最後は相打ちになって魔法少女が病院送りになるっていう、まぁ、そんなに珍しくない場面だったんですが……その光景が、あの娘風に言うなら『正しい魔法少女らしさ』のイメージを切り取った一場面って感じでして。」
懐かしむように目を細めて杉崎さんは思い出を語っていく。
何度か相槌を打とうかと思ったけど、水を差すような形になりそうで止めておいた。
「それで、感じたことがあったんだですよ。私なりの魔法少女の本懐ってものでしょうか?なんだと思います?」
「……………」
「自己犠牲です。理由はどうあれ、自分が魔法少女であるからと、恐ろしい
あぁ、ようやく絡みづらさの理由が分かった。
ボクが杉崎さんにどこか初めから立科さんと同じものを感じてたからだ。
「杉崎さん。悪いけど、ボク、杉崎さんのこと苦手かも。」
素直に言ってみると、胸のつっかえが取れてスッとしたような気がした。
他人にここまで何か強い感情を持ったのは立科さんぶりだ。
杉崎さんはボクの言葉に少し黙り、
「素直なことは大事なことですね。」
そう言って微笑む。
ボクはなんだかなと思って頭をかいて、視線をわざと外すと、今居る丁字路の壁に描かれた大きなラクガキが目に飛び込んだ。
「随分大きなラクガキですね……しかもこんな場所にポツンと一つだなんて気になりますね。」
「……確かに。」
ラクガキに能力を使おうとした瞬間、ラクガキからバチバチと何かが弾けるような音がした。
攻撃かもと思って一歩引くと、ラクガキから山井さんが飛び出してきた。
「くっそ…また!コケにしてくれんじゃない!………あ、梔子と杉崎じゃない。丁度よかったわ。アンタら、この舐めたヤツ倒すの手伝いなさいよ。」
イライラする山井さんにほら速くと腕を引っ張られ、分かったと返答しようとすると、今度は反対側からボクらを呼ぶ声が聞こえた。
「く、梔子先輩。す、杉崎先輩!」
「あ、丁度良かった。先輩、イヤホンさん、これどうすればいいと思います?」
見てみれば前野さんと吉永さん、その背後にふらふら浮かぶ、半透明で、端的に言うならハエ人間って感じのデザインのヴェイグリア?が30体以上も居た。
「お、あとは相澤さんで、グループ勢揃いですね。」
カオスな状況と、そんななかで発された杉崎さんの呑気な言葉に溜め息をつく。
あぁ、熱出そう。
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