【山井視点】怪しいラクガキ(1)

「はぁ……面倒くさいことになったわね。全く、あの女……」


いつも通り、相澤と街をぶらつきながら、さっきの会議を思い出して溜息を吐く。


「浪埜さんのことでしょ?ヤマイちゃん、本当に嫌ってるよねぇ。」


「そりゃそうでしょ。」


アタシと吉永組まそうとするなんて何考えてんだか……やっぱ苦手だわ。

そもそも、強いなんて憧れちゃうね、なんて初対面のセリフからしてアイツ嫌いなのよね。


「浪埜さん良い人だと思うけどなぁ、話しやすいし、接してて楽しいし。」


「アンタねぇ……付き合いやすい人間=良い人間だなんて簡単な式無いのよ。」


もう5時なのね。杉崎だっけ?が居てよかったわ。そうじゃなかったら今もあの辛気臭い部屋でぐちぐち言う羽目になってただろうし……


「本当に辛口だね、ヤマイちゃんは。」


「ふん、普通よ。普通。アンタがザル過ぎなのよ。」


ニヤニヤ笑う相澤から顔を背け、前を見ると何か違和感を感じた。

人が少なくなった気がする。

歩いていた道が壁にラクガキ数多の裏道だから歩く人の数の少ないのは普通だ。

でも、流石にこっちの道に入ろうと曲がったときから人が少ない気がして仕方ない。


「ねぇ、君。今、暇ぁ?」


「はぁ?」


急に肩を掴まれたので後ろを見ると、茶髪のオールバックの男がいた。

アタシにナンパするなんて見る目のある男だが、今構ってる暇はない。


「向こうにさ、いいバーがあるんだけどね」


「今暇じゃないのよ。ナンパならどっか行きなさい。ほら、しっし!」


「なんだと、テメェ」


アタシの対応にイラついたらしい男は肩を掴む手に力を入れてきた。

はぁ、うざ。


「だから、魔法少女のアタシは今暇じゃないのよ!」


「ひっ!?」


男の前で見せびらかすみたいに手から電撃を小さく出してやると、男はしっぽ巻いて逃げてった。たく、最初から帰っとけっての。


「ちょっと、相澤!アンタもぼうっとしてないで止め………」


ふと横を見れば、いた筈の相澤が居なくなっている。

辺りを見回してみても相澤はいない。なんなら、さっきの男ももう見えなくなってる。

ただあるのは壁に点在する派手なラクガキだけだ。


ああ、なんだか知らないけど……アタシに喧嘩売ってるわけね、ラクガキ野郎。


「いいわ、喧嘩買ったげる……」

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