魔法少女てんてこ舞い

忙しくなる日常(1)

「お、来た来た。こっちだよ」


ジェザーガーを倒したことで話があるから魔法少女対策課に来て欲しい。そう昨日の夜に電話を受けて魔法少女課までやってきたボクを出迎えたのは、玄関口でタバコを吸っていた浪埜さんだった。


「昨日は急に電話してごめんね。これ、お詫び。それじゃ、行こっか。」


今さっき自販機で買っただろうペットボトルのリンゴジュースをボクに手渡すと、そそくさ受付の脇をすり抜けて、最奥の会議室10へ入る。

ボクも後に続いて会議室の扉をくぐると、机を囲むように設置された4脚のソファのうち3つに5人の魔法少女が座っていた。


外ハネをいじくりながらイヤフォンで何かを聞くボクと同年代っぽい人に、どこのかは知らないけど学生服を着た、大人しそうな黒髪メカクレの子と、向かう水に大きな音で口笛を吹くお調子者風の金髪の子の高校生二人組。

そして見知った顔が2人、山井さんと相澤さん。


5人の雰囲気はあまりにチグハグで、どこか近寄り難さを感じてしょうがない。

思わず、座りあぐねてしまう。


「真白ちゃんはそこの空いてる席でお願いね。私と相席になっちゃうから居心地悪いかもだけど。」


「………いえ。」


「悪いね。ちょっと資料取ってくるからもうちょっと待っててね。」


促されて空いたもう一席に座るや否や、ねぇ、この中で一番関わり合いたく無いと思った金髪の子に声をかけられた。


「真白ちゃんって呼ばれてたよね……ってことは最近巷で噂の梔子真白先輩で合ってる?」


「合ってる……噂の部分は知らないけど。」


「へぇ……」


金髪の子は曖昧な相槌を打って、時たま喉を鳴らしながらボクの顔や体を見つめる。その視線はさもボクを品定めしているような感じで嫌になる。


「うーん。先輩、思ってたより弱そうですね。見た目も想像してたみたいに氷みたいなクール系なのじゃなくて、人甘やかしそうなお姉さんチックだし。」


あははなんて他愛無く笑いながら、ボクの品評会を始めた金髪の子こと、吉永真香さん。

すごい子だ。明け透け。


「これなら、もしかして先輩に勝てる「訳ないでしょ、吉永。アンタがどんだけ自分の能力に自信持ってても関係ないけど、うっさくしてんじゃないわよ。」


「へぇ、山井さんも人のこと褒められるんだぁ。」


話を遮るように噛みついてきた山井さんに、吉永さんは煽るような態度をとる。


「……………」


山井さんは返答も反応もせず、だから吉永さんも更に山井さんの気を逆撫でするような言葉も出ない。ただそれでも空気が明らかにピリついてきてある。

どっちかが吠えたら、言い合いになりそう。

勘弁して欲しい。


「いいねぇ、早速お喋り?仲良きことは良きことだよ。ただ、悪いけど私の方の優先させてもらっていい?かったるいけど、仕事だからさ。」


いよいよ空気が不味いかも。そう思った瞬間、入ってきた浪埜さんの場違いな言葉で、張り詰めていた空気感が緩やかに萎んでいく。

しかし、ボクが来てから10分そこそこでこうだと、話し合いの一つすら厳しそうに感じる。


「この前のジェザーガーってヴェイグリア、あれを私らの上は危険視しててね。だから対策に力を入れたい、でも樋口みたいな魔法少女あがりの人材は足りてない。で、ここからが話の肝なんだけどさ、バイトやってくんない?勿論お金は出すよ。」


「バイト?いいですけど、何するんですか?」


「暫くの間、自警団として活躍して欲しいんだよねぇ、ここにいる6人でグループ組んでもらってさ。」


無理でしょ。誰も口には出さないけど、浪埜さん以外の顔には明らかにそう書いてあった。

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