ラストノート


「どうしました?さっきまでは勝ちを確信していたって言うのに。」


ところ構わず飛び出してくる木の根と、数的有利からくる魔法少女の手数の多さにボクたち3人は圧倒的に押されていた。


「ヤマイちゃん、クチナシちゃん、一旦ここは外に」


相澤さんが扉に手を掛けようとした瞬間、木の根に扉を固められてしまう。

どうにか、相澤さんが凍らせて壊そうとするも木の根は壊される度にすぐさま補充されてしまい、埒があかない。


「これで逃げ道も失いましたね。大人しく降参してはどうです?」


「舐めるんじゃないわよ、クソワーム!」


ジェザーガーの言葉への反発としてか、山井さんが苦し紛れに投げた剣は偶然にもワームの化物の胸のあたりへ突き刺さった。


「何っ!?………そんな……馬鹿‥な…………っ!!」


呻き声をあげてテーブルに倒れるジェザーガー。それに連れるようにスタッフたちの動きも止まる。



「やった!」


それを見て、相澤さんが勝ったと歓声をあげると、テーブルに突っ伏した、倒したはずのジェザーガーの体が震えた。

見間違えじゃない。確かにジェザーガーの体は小刻みに震えている、まるで笑いを堪えるように。


「なんちゃって、惜しかったですね!」


がばっと起き上がったジェザーガーはそう言ってゲラゲラと大笑いした。


「……どういうこと」


「どういうこと?……それはですね、この姿が私の本体じゃないからですよ。いわばこの部分はチョウチンアンコウの提灯、擬似餌なんですよ。見事に食いついてくれましたねぇ」


質問したのか、それとも思ったことが口からこぼれたのか、小さく発された山井さんの言葉にジェザーガーは嬉々として答え始めた。


「いやぁ……ほんとに惜しかったですよ、御三方は。拍手させてください。」


「…………」


「ほら、こっちが拍手してるんだから喜んでくださいよ。」


黙るボクら。

ホールには、ジェザーガーの言葉とボクらを煽るような拍手だけが響く。


「そうだ!ここまで私を追い詰めた功績を讃えて私の本体、いや正確に言えば心臓部ですかね、教えて差し上げますよ。聞きたいでしょ?」


「……………」


「返事が聞こえませんがいいでしょう。お教えしますね。それはねぇ……トイレの花瓶に挿された花なんですよ。つまりね……この部屋から出られない御三方に勝ち目は端から」


「まさかこれのことかしら?」


「は?」


延々と続くかもと思うようなジェザーガーのお喋りは、山井さんが懐から黄色い花を出したことでピタリと止んだ。


ジェザーガーはさっきまでの雄弁が嘘のように、意味が分からないとばかりに口をパクパクさせている。


「教えてあげましょうか?」


「え、あ」


「梔子にね、言われてたのよ。これからアンタの情報が見えたらしくてね、予め回収しといてくれって。実際、アタシもスタッフがやけにトイレに出入りするから怪しいとは思ってたし、すぐ実行したわけ。」


「いや、それならスタッフが花がないのを見つけるはず。」


「それは私の氷細工を口紅で色付けしたのを置いといたんだよねぇ。花があるか無いかしか気にしてなかったから偽物だって気付かなかったでしょ?」


相澤さんは同意を求めるようにスタッフへ声をかけるが、洗脳状態にある彼女たちは反応せず、ジェザーガーだけが顔を歪めた。


「花が本体かどうかまでは見れてなかったらしいから半信半疑だったけど、アンタが聞いても無いのに話してくれたから助かったわ。」


「雄弁は銀、沈黙は金だっけ、喋らなかった私とヤマイちゃん、クチナシちゃんの勝ちだね。」


二人の言葉を聞いたジェザーガーは忌々しそうに、衣装哲学、そうぼそっと呟き、最後っ屁とばかりに山井さんを貫かんと木の根を勢いよく伸ばす。


「遅いのよ。」


ぐんぐんと迫り来る木の根に山井さんは目もくれず、花を握り締める。

瞬間、電撃が流れ、花が瞬きする暇もなく真っ黒に焦げて崩れ去るとともに、山井さんの喉元まで伸びた木の根が枯れ果て、ジェザーガーが力なく椅子から転げ落ちた。

死んだらしい。



「知ってたんだ、『三四郎』以外。」


気付けば、倒れたジェザーガーを見ながらボクはふとそう口にしていた。


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