ミドルノート

「正直に言ってね、私は人間の本には一切興味が無いんですが……三四郎この本は唯一好きでね、何度も読みましたよ。クチナシさん、あなたは読んだことあります?」


対面に座り、黄ばんだ「三四郎」をペラペラ捲るオガワことジェザーガーの言葉にボクは答えず、ジェザーガーの背後を見た。

細長い手足、ワームみたいな頭の奥から飛び出した目玉。誰かの悪夢から引っ張り出してきたような醜悪な化物が姿を覗かせている。


「私の本当の姿。どう思います?」


背後への視線に気付いたらしく、ジェザーガーは自分の後ろを指差して、ニヤニヤ笑う。


「別に……普通じゃない。」


「おお、これは珍しい意見ですね。他の魔法少女、今はスタッフをしてもらってる彼女らは一様に嫌悪を示したのに。」


そう言いながら、ジェザーガーは戯けた調子でミネコを含めたスタッフ7人を1人ずつ指差す。

戦力差は歴然だってアピールなんだろう。

正直、鬱陶しい。


「そんな彼女たちもね、今は私に忠誠を誓ってくれています。何故だか分かるでしょ。私が人間を魅了し、洗脳させる能力を持つからですよ。」


ジェザーガーは負けることのない余裕からか、ボクの相槌も待たずにペラペラ喋り続け、平然と自分の能力のことすら詳らかにする。


「いいの?自分の能力喋っちゃって」


「ああ、やってしまった。口が滑ってしまいましたね。口が滑ったついでに聞きたいんですがね、私が何で洗脳したか、どうです、分かりました?」


白々しく頭を抱える演技をして、ニヤニヤするジェザーガー。

この男との会話に鬱陶しさを通り越して、億劫さを感じてきている。


「これでしょ。これに匂いが付いてた。」


さっさと話を切り上げたくて、ボクがネームプレートを投げると、ジェザーガーはそれを受け取り、まじまじと見つめながら面白そうに笑みを浮かべる。


「いつ気付いたんです。」


「ネームプレート受け取った時に………会の名前的に匂い関係の能力かなと思ってたけど、花と花瓶は怪し過ぎたから。」


「なるほどねぇ……私の匂いの上書きに使った香水はどっちのものなんです?」


ジェザーガーはネームプレートの匂いを嗅ぎ、洗脳にかかったフリをしていた山井さんと相澤さんのほうに視線を向けるが、そこにもう2人は居ない。


「私のだよ。いい匂いでしょ、オガワさんのより。」


「アンタの洗脳は失敗したの。残念だったわね、アタシたちの勝ちよ。」


変身した山井さんと相澤さんが勢いよくテーブルの死角から現れ、それぞれの武器である剣と槍をジェザーガーの喉元へ突き出す。


「いやぁ、お見事。お見事。これはまいったなぁ。暴力的な手に出るしかないですね。」


そんな状況ながらジェザーガーは愉快そうに、後ろへ従えたスタッフに入れさせたコーヒーを啜る。

それを合図にミネコを含めたスタッフ7人の魔法少女と、ジェザーガーの能力らしい植物の根がボクらへ一斉に襲いかかった。




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