トップノート(1)
「ぱっと見……30人ぐらいね。」
ミネコ役の魔法少女に連れてこられたのはこじんまりとしたホールだった。
案内されるまま木目調のドアをくぐる。
中に目を通すと10卓の丸テーブルが綺麗に並べられ、会員らしき凡そ30名がそれぞれに置かれた5脚の椅子にまばらに掛け、談笑している。
「じゃ、行くわよ。」
一緒では怪しまれるからと、山井さんは入り口から最寄りの1番の机に、相澤さんは2番の机に座り、ボクは誰もいない5番へ陣取る。
「貴女は何がお好きなんですか?」「あー、そうねぇ、『2次元の箱庭』とか。」「まぁ!山井さん、SFがお好きなんですね!」
聞いたことない本だ。調べてみると、50年以上前に書かれた、かなり本格的なSF小説らしい。
山井さんとSF、似合わない組み合わせだなぁ。
そんなことを考えながら、ぼうっと机の中央に置かれた花瓶を眺める。
花瓶は水滴が跳ねたような、アシンメトリーな形をしており、冷たさを感じるほどに白い。
挿されたラベンダーはバツが悪そうだ。
他の机にも同じものがあるが、場とはやけに浮いている。
「こんにちは、広田です。」
ボクの後ろからにゅっと男が出てきた。
……広田、この名前も三四郎にあった気がする。確か先生の名前だっけ。
「横へ座っても?」
ボクより2つか3つ上だろうか、やけにキザったい。
「君、初めてだよね?本、好きなの?」
わざわざ隣の席をボクの方へ近付けて座り、顔を覗きこむように話しかけてくる。
「………どうだろうね、あんまり。」
「ヘェ…それじゃあ、今日はお友達の付き添いで来たのかな?奇遇だね。ボクもそうなんだよ。」
広田はボクの右手に、そっと左手で触れる。
ナンパ……なのだろうか?
「ねぇ、良かったらさ……場違い同士、すこし外で話さないかい?」
広田はボクの手を両手で握り、爽やかそうに笑う。
なんだか、その顔がやけにうざったく感じた。
「ねぇ」
「なに?」
ボクが広田の方に顔を向けると、広田はボクに向かって微笑む。
「桃、持ってる?」
広田は一瞬ポカンとして、そのあとボクの言葉の意味を理解すると、面倒な女を引いてしまったと苦い顔になったけど、すぐさま、三四郎の話ねと言って取り繕うよう笑った。
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