ストレイシープ
「クチナシちゃん、なんでこの大学?って思ってるでしょ?」
確かにそう思っていたから頷くと、相澤さんは得意げにふふんと笑みを浮かべた。
「ミイラになった魔法少女がミイラになる前に言ってたんだよねぇ、ここに『ストレイシープ』の代表がいるかもってさ。知ってる?『ストレイシープ』。」
「………香水の名前……じゃないか。」
「大学跨いだ文学会よ。ま、実際はただのお喋りサークルみたいだけど。」
大学のサークル自体何があるか知らないボクには、インカレの文学会だなんて遠い世界のもので、想像が湧かない。
「代表がオガワで、窓口役がミネコ……笑っちゃうわよね。」
「三四郎だ。」
「そ。文学会らしいっちゃらしいけど、これがヴェイグリアのおままごと場なら気取り過ぎてて、鬱陶しくて堪んない。」
爪を弄りながら、吐き捨てるように発された山井さんの言葉に、相澤さんが苦笑する。
「それで、私とヤマイちゃんは『ストレイシープ』にお邪魔しようって考えたんだぁ。」
「そうなんだ。大変そうだけど頑張ってね。」
今度こそトレー返却口へ行こうと立ち上がったボクの腕を、山井さんの腕が強く掴む。
このやり取り、デジャヴだよ。いや、あったことだし再放送か。
「ミネコへの連絡はもう済んでんのよ、明日の会に参加したいってね……3人で。」
来ないわけないわよね………口にこそ出さないけど、山井さんの目は明らかにそう言っていた。
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「早いわね。」
押し切られる形で決まった『ストレイシープ』参加当日、待ち合わせ場所へ10分近く早く到着すると、革ジャンに、黒のスカートと、昨日と同じく派手な出立ちをした山井さんが、街路樹周りのブロックに座っていた。
「言った通り、服変えてきたのね。殊勝な心掛けじゃない。アンタにガーリッシュな服装、似合ってないわね。」
山井さんはボクの服装をぐるっと眺め、ニヤリと笑った。
いつもジーパンだから、スカートに些か違和感を感じる。
「ボクだけ服装の雰囲気まで変える必要あるの?」
正直、居心地が悪い。
「そりゃあ、撒き餌よ。参加してるってヤツの大半がそんな服装だったから、それなら、そういう格好してヴェイグリアを引っ掛けなきゃでしょ。違う?」
分からないでもないけど……
ボクじゃなくても良くない、そう反論しようかと思ったけど、2人とも服装のこだわりは強いから頑として着るのを固辞するだろうから、面倒くささを感じてやめた。
「はろー、ヤマイちゃん、クチナシちゃん。おっ!クチナシちゃん、昨日のパンツも似合ってたけどスカートもカワイイじゃん!」
「ちょっと相澤。時間ないんだから、早く行くわよ。」
「はぁーい!」
時間ギリギリになってようやく相澤さんが合流し、ボクらはミネコとの約束の場所に歩くと、女性が立っていた。
どうやら、あれがミネコらしい。
「山井様、相澤様、梔子様……この度はご連絡ありがとうございます。案内役のミネコでございます。」
ミネコは無感情にすらすら言い慣れたであろう言葉を口にして、ボクらにお辞儀する。
「では、行きましょう。ワタクシについて来てください。」
ミネコはそれだけ言うとボクらに背を向け、スタスタ歩き出した。それに続こうとしたボクの肩を掴み、山井さんが耳元で囁く。
「アイツ、この前『ストレイシープ』に行った魔法少女よ。」
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