絡みづらいコンビ

通り魔の件から一周間が経った。

初めの1日、2日は少し周りが騒がしくなったけど、それも一過性のもので、今はボクに話しかけてくる魔法少女も別に居ない。


そんなわけで、普段通り、学食では最安値のサバの味噌煮定食を食べていると、高いヒール特有の地面を蹴る音が聞こえてきた。


そちらに視線を向けてみれば、サイドテールにまとめたギラギラした金髪、ホットパンツにヘソ出しルックと、学食という場をランウェイか何かと勘違いしていそうな女性が居た。


あの手の手合いには関わりたくないな、そう思うけど、残念なことに彼女はボクの方へずんずん歩みを進め、同じ机に備えられた椅子にどかっと腰掛ける。


「君、マシロちゃんでしょ?クチナシマシロちゃん!」


能天気そうに、彼女は持っていたマシュマロの袋からマシュマロを取り出して口に投げ入れた。


「……人間違いだよ、ボクはその人じゃない。」


退散しようと、トレー返却口目指して立ち上がった瞬間、横の席からにゅっと伸びた手に阻まれた。


「つまらない嘘ね。その白髪とボクって口調が何よりの証拠でしょ。座んなさい」


神経質そうな黒髪の女性は組んだ足を貧乏ゆすりしながら、ボクに座るよう命令する。


「………確かにボクは梔子だけど、君たち誰で何の用なの?」


「私は相澤 夢乃。で、こっちが私のコンビのヤマイちゃん。よろしくねっ!」


「山井 小百合よ。せいぜいよろしく頼むわ。で、早速だけど要件を言うわ……梔子。アンタ、あたしと相澤と組みなさい。」


「嫌だよ、悪いけど。」


「はぁ?」


ボクの返答がよっぽど気に入らなかったらしく、山井さんは飲んでいた紙パックのジュースを思い切り握って、ボクを睨む。

紙パックは歪に凹み、先の噛まれたストローが地面へ落ちた。


この前あった村主さんとは別のタイプで、有無を言わせてくれなさそうな人だ。


「そんな頼み方じゃダメじゃん、ヤマイちゃん。あ、クチナシちゃんも気に障ったらごめんねー。ヤマイちゃん、沸点低すぎだからすぐ怒っちゃうんだよねぇ。」


相澤さんは怒る山井さんをケラケラ笑いながら、またマシュマロを口へ放り投げた。


正直言って絡みづらい……面倒くさいなぁ。



「頼み方に気分悪くしたかもしんないけど、断わるのは勿体ないよ、クチナシちゃん。だからさぁ、もうちょっとだけ話聞いてくんない!ねっ!ほら、ヤマイちゃん説明!」


相澤さんは目を細めて、強く貧乏ゆすりをする山井さんの頬を指で突いた。

山井さんはそれに心底嫌な顔をしながら、手を強く払いのける。


「最近、大学生の女が何人も変な集団に入れ上げて、姿くらませてんの。アンタ、聞いたことぐらいあるでしょ?」


「知らない。」


「チッ、まぁいいわ。それがヴェイグリアの仕業だろうって話になってんのよ。で、もう2、3人探しに行ったわけ。」


「……ミイラ取りがミイラになった。」


「そ。その通りよ。」


「私とヤマイちゃんはそのヴェイグリアの報奨金狙いなの。魔法少女を返り討ちにしたなら額も高くなるからさぁ。」


「ただ、2人じゃ心配だからアンタを仲間に入れたいってわけ、理解できたわよね。」


「できたけど、何でわざわざボクなの?」


「そりゃあ、クチナシちゃんてばこの前の通り魔騒ぎで有名だしぃ、それに……」


相澤さんはニヤッとしながら、食堂の上を指差す。

……嫌な予感がする。


「この大学に居んのよ、ソイツがね。」


はぁ……最近、厄溜まってるのかも。

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