不吉な雲、降水率50%(3)

人だかりを抜ければ、背中に巨大な棘を生やしたトカゲに似た生物と、息のあがった女性が居た。


ここが遅刻しかけのウサギを追いかけた先とかじゃないなら、勿論、トカゲらしいのがヴェイグリアに違いない。



バリアを張ってトカゲもどきの攻撃を防いでいるらしい魔法少女にかけ寄ると、女性の方もボクに気づく。


ーーーーー大江瑠璃ーー魔法少女ーーー身長ーー


瑠璃……この人が村主さんが言ってた人か。


「あ、あの…!あなた、魔法少女ですか…!」


「うん。」


ボクの素っ気なさに、大江さんはうっと縮こまってしまって、そこで会話が詰まってしまう。

ああ、やってしまった。


「梔子です。村主さんから指図されて、お助けに」


そう言うと、強張っていた大江さんの顔が幾分か晴れた。


「そうなんだ…えっと梔子…さん……私は」


「大江さんですよね、バリアで防御お願いします。」


「えっ!?え…な、えっ!?」


大江さんに指示を出すと、ボクの能力を知らない大江さんは半ばパニックになりかけていた。

説明してからすべきだったかな、一歩退化でプラマイゼロか、あーぁ。







改めて、トカゲもどきの方を見る。

一目見て思うのは大きくて重そう、硬そう、そんな感じ。


ーーーーーヴェイグリアーー四足歩行を行いーー


「……こんにちは、ご機嫌どうですか?」


一応、話せるタイプかもしれないと思って声をかけると、ヴェイグリアは言葉の代わりに唸りをあげて、ボク目がけて突進してくる。

残念、意思疎通できるタイプじゃないらしい、


重そうな図体に似合わず、なかなか素早い一方で、イメージ通り直前的な突進をジャンプで避け、取り敢えず頭目がけて拳を振り下ろすが、ボクの手に痛みが伝わっただけで、トカゲもどきの方はダメージを受けておらず、痒そうに頭を振るう。

思ったより硬い。


ーーーーー背中の皮膚は特に厚くーーその一方で腹部の皮膚は薄くーーー


いつもより明らかににくい……やっぱり見慣れないモノ相手だからだろうか。


そんなボクの状況なんて知らぬ存ぜぬ、トカゲもどきは徐に棘を光らせる。

まだ全然見えてないのに…新しいの出すの面倒くさいなぁ。

すぐさまバリアの中へ飛び退くと、今まで立ってたところが燃えた。


ーーーーー棘からは火を吹きーー


はぁ、知ってるよ。いつにも増して遅い能力の発動に悪態をつきたくなる。

仕方ない、見るしかないかぁ………面倒くさい。


「あの、梔子さん!必勝法…出ましたか?」


バリアにただひたすら突進しては、火を吹いてを繰り返すトカゲもどきを文字通り眺めていると、大江さんはうんともすんとも動かないボクを流石に不安に思ったらしい。


「いや、ごめんなさい。」


「そう…ですか」


そう答えると、大江さんの顔はみるみる青くなって、不安げに何かブツブツ呟いていた。


ーーーーーーー棘を光らせ、火を吹いた後には少しの静止時間が生まれーーー


「大江さん」


「あぁ…もうだめ……何でこんな……無愛想に………説明……説明してよぉ………あぁぁ」


「大江さん」


「は、はぁい!」


「大江さん、合図したらあのトカゲの右両足にバリアを張ってください。こう……筍みたいに」


「え、あ、わ、分かりました。」


大江さんは青い顔で頷く。


トカゲもどきが棘を光らせる。


「お願いします。」


「は、はい!」


火を吹いたトカゲもどきは動きが止まり、瞬間右足から飛び出したバリアで左にバランスを崩した。

そのまま空いたスペースへスライディングし、誰かが落としたらしい傘を腹部の辺りに力一杯突き刺して、通り抜ける。

今日が降水率50%で良かった。



トカゲもどきは嫌な声をあげて、地面へ這いつくばるようにして動かなくなる。


「や、やったー、倒しましたよ!!」


「アンタ!…ッてて、やるじゃない!!」


それを見ていると、泥まみれになったボクに大江さんと村主さんが興奮気味に駆け寄ってきた。


倒したらしい。それを実感すると、良かったなぁ、そう思うよりも服をクリーニングに出す面倒くささを先ず感じた。

………ボクらしい。


立ち上がり、ジーンズに着いた砂を払っていると、いつの間にか一人の女子高生が立っているのに気付いた。


「少しお時間いいですか、梔子真白さん。、貴女に用事があります。」


ボブカットに眼鏡をかけた、委員長然としたその子はボクを凝視する。その声は凛としていて、視線はボクを嫌悪するように、いやボクをどこか見下すように鋭い。


どうやら不吉な雲はこっちのことを指していたらしい。

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