不吉な雲、降水率50%(2)

2人を見送って少し経っても、どこか雲の不気味さが頭から離れず、当てもないのにボクは街の目貫通りを散歩していた。


どうせ杞憂だ、なんて分かっていることだけど、それでも何かあの鈍い色味が不幸を引き寄せてきているように思えて。


ボクの頭の中の思考は、浪埜さんたちから聞いた通り魔の話と、あの雲の不吉さからの連想が大きく混ざり合い、それに蓋をするように面倒くささが横たわっていた。

そのために思考が滑って、整理がつくことは無く、それだから目貫通りを歩くボクの足も止まらない。


そうこう遠くをぼんやり眺めて歩いていれば、街路樹のポプラで円形にくり抜くように形成された広場にできていた大きな人だかりにぶつかった。


何かあったのか知らないがとくに興味がないので、踵を返そうとすれば、


「っあぁ!!くぅッ」


ボクの横にドレスのような衣装に身を包んだ、くすんだ紫髪の女性が飛んできた。

一目見て、魔法少女ボクと同じなんだと分かったし、おそらく人だかりの真ん中にいるのは2択に絞れた。


「大丈夫?」


人だかりを見ながら、横で呻く魔法少女に尋ねると


「この状況見て……普通、大丈夫だと…思うっ?」


折れたらしい右腕を庇うようにして立ち上がり、つり上がり気味の鋭い目でボクをキッと睨んだ。

その調子なら大丈夫そうだねと、口に出そうになるのを抑える。怒ったら、この人はきっとキャンキャン五月蝿そうだから、その声で怒られたくない。面倒くさいし。


「アンタッ、魔法少女なんでしょ!」


「まぁ、うん。」


がぁっと横にいる魔法少女、村主すぐりさんがボクに突っかかってきた。


「何でか知んないけど、人だかりの中にヴェイグリアがいんのよ!分かんでしょ!今はワタシと」


ヴェイグリア、10年前まで魔法少女の第一世代が戦ってた別次元の怪物。

連日現れてた時はボクは小学校で、実際に見たこともないから、ニュースでのうろ覚えの記憶しかない。だから、ある意味、ボクにとってヴァイグリアの話を聞くのは、大人がバブル景気を語るのを聞くのと同じような感覚がする。

その、イメージのつかない生命体は怪物と言われているから、俗に言うところの怪物に似たフォルムが多いらしいが、人型もある程度存在するらしく、魔法少女課から聞いた話によれば人間との意思疎通が可能な


「ちょっと!聞いてんの!」


村主さんの一喝で、思考が現実に引き戻される。


「ごめんなさい、あんまり」


「アンタねぇ!………まぁいいわ、文句言うのは後よ。兎に角!瑠璃1人じゃどうしようもないから、ワタシが回復するまでアンタが戦って!いいわね!」


有無を言わせない村主さんの言葉を拒否しようかと思ったけれど。反論すればするだけ面倒になりそうな気がして、頷く。


手足に装備を纏い、人だかりの中へ進もうとした瞬間、樋口さんからこう言う時にはまず電話しろと言われたことを思い出したので、村主さんへ携帯を放り投げる。


「ちょっと…なにこれ?」


「魔法少女課に連絡しといてください。梔子がヴェイグリアと戦いますって。」


面倒くさがりのボクにとっては成長かな、なんて思いながら人だかりの中へ駆け出すと、後ろからあんたねぇ!!私、怪我してんのよ!!と村主さんの怒鳴る声が聞こえた。

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