第9話

〜4年前 ストワード王国〜


煌びやかな王宮に、俯いて顔を隠しながら足を踏み入れる金髪の女性。

「君がレモーネか」

「はい」

「ボクはアントワーヌだ。ストワード王国の第一王子なのだ」

「よろしく、お願いします……」

レモーネが頭を下げる。

彼女がここに来るのは初めてだった。初仕事だからである。レモーネの家系は代々魔力の暴走がないか確認を行う。レモーネはつい昨日に代替わりしたのだ。

「その……母上のことは」

「いいのです。魔女は継ぐもの。それが早かったというだけですから。技術は引き継いでいます。問題はありません」

「そうか……。頼むぞ」

「はい」

5年に一度の儀式。今回はレモーネの母が行う予定だった。しかし、つい先日亡くなってしまったのだ。

儀式の内容はアントワーヌも知らない。それは代々レモーネの家系の魔女しか知ってはいけない。

「王子、そろそろこちらに」

「あ、あぁ。それではボクはこれで」

家来に呼ばれたアントワーヌがその場を後にする。

「……」

レモーネは長い前髪で目を隠すと、そのまま王室に向かった。


王室に飾られている金色のランプ。それこそが魔力を封印している、なんて、誰も知らないだろう。シャフマとストワードを何度も往復している古い色のランプに、まさか魔力が封印されているなんて。

(欲望の深い人はこれに魅せられてしまう。今の国王もそう)

(でも、手放そうとしないのは魅せられているから。都合はいい)

紛失したなんて言ったら大変だ。

レモーネがランプに手をかざす。封印の模様が浮かんだ。

「大丈夫……解けていない」

頷いて、腕を下ろす。

「……あの」

「?」

レモーネが振り返ると、半開きになったドアから金髪の青年が覗いていた。

「すみません、今何をしていたんですか?……覗くつもりはなかったんですが、光が見えた気がしたので気になって」

「……」

レモーネの目が泳ぐ。

「……ストワードで唯一魔力を使うことを許されている魔女はあなたなんですね?」

「!」

レモーネが顔を上げてしまう。長い前髪がはらりと落ちて、真っ赤な瞳が露わになった。

「そ、それは魔族の……!」

「違っ……私は、人間です!魔女は人間ですから」

「そうなんですか……?」

青年が聞くと、レモーネが頷いた。

「真っ赤な瞳は、たしかに古い魔族の形質です。しかし、私の祖先はほとんどが人間です。おそらく貴方たちと変わらないです」

「では、魔女は魔族ではなくて、『魔法の使い方の知識』なんですか?血ではない、と?」

「はい……。でもどうしてそんなことを聞くのですか?ストワード王国では魔の話は禁忌のはずです」

「私は……」

青年が苦笑する。

「魔を知りたいんです。どうしてか、惹かれてしまう……」


「そうなのですか……」


「私はスタン・レイ・ストワードです。魔女さん、あなたの名は……?」


「私はレモーネです。姓は……


エル・オーダム。


レモーネ・エル・オーダムです」

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