第8話

アントワーヌがアレストの部屋に入る。

「あまり長くは話せないが」

「構わないさ。また何度でも来ればいい」

アレストがベッドに腰掛けて足を組む。「ほら、こっちに座ってくれ」と手招き。

座ると、アレストがアントワーヌの肩に手をまわした。

「……本当に立派になったねェ」

細められる紫の瞳が近づく。アントワーヌは何も動じない。

「ふふふ、ドキドキしないのか?」

「もう慣れたのだ。君との付き合いも長い。ボクも大人になった」

「そうだねェ……だが、あんたは俺からしたらまだまだ子どもさ」

アントワーヌの広い胸板に、アレストのハリのある胸が触れる。

「なんのつもりだ。アレスト、君にもボクにも愛しい妻がいるだろう」

「……心臓の音は共鳴するのにな」

ルイスと、こうしていれば。

こうする勇気があったならば……。

(初めから、俺に勇気があれば……)

「君は、物理的なものに拘りすぎる節があるな」

アントワーヌがアレストを引き剥がす。

「そんなことをしなくても、ボクたちには信頼がある。違うのか?」

「……!」

彼の青い瞳は真剣そのものだ。

「違わないさ」

アレストが苦笑する。

「精神的なものに囚われて前に進めなくなるあんたと真逆だな、俺は」

覚えがあるようだ。アントワーヌが目を泳がせる。

「拘るのは良くないことではないのかもしれないな」

「くくくっ、都合が悪くなるとすぐこれだ」

「む……」



「で、何の話なんだ?」

「この前言いかけただろう。魔族の存在に気づいたのは、弟がきっかけだったと」

「あぁ」

「彼は魔法使いだったのだが……」

アレストはアントワーヌの弟のことを思い出していた。たしかに魔法攻撃を使っていた。

「魔法使いはストワードでは珍しいのか?」

「……粛清対象だった」

声のトーンが落ちる。

「魔女狩り、とでも言えばいいのか。もちろん対象は女性だけではないが。男性でも魔法の研究をしている国民は死刑だ」

「第二王子だったんだろう?」

「彼が魔法を使えるのは皆知っていた。しかし、あの日までは実害がなかったし……何より王族の中で死刑なんて血なまぐさいことはできない」

「それで死刑を免れていた、と」

アントワーヌが頷く。

「例外はあるのだ。レモーネの家系は代々魔法を使う。しかし理由はある。万が一封印が解けてしまったときに魔女がいないと大変なことになるから……だ」

「なんというか、都合がいいんだねェ」

「ボクもそう思う」


それから、アントワーヌは自分の過去について話を始めた。

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