第7話

次の日の夜。

酒場での仕事を終えたアレストは、王宮跡地の自分の部屋に向かっていた。ふと、暗い階段を思い出す。

(地下室はもうないのにな)

アレストが29歳のとき、ラパポーツ公とスティール公がメルヴィルを砂時計の所有者にしようと実験を試みたあの日に、この手で壊した。地下室だけではなく王宮諸共。

「……」

そもそも、砂時計の呪いとはなんだったのだろうか。

(考えなかったわけではない……が)

魔力が元になっているのは分かっていた。大陸の魔法は『命を動かす』手段だ。

だから、兵器として使い勝手が良い。

しかし、幸か不幸か……このシャフマでは『信仰』……人間を救済するための手段として使われた。

(信仰目的で使われても、元は命を動かすものだ。兵器になっちまうのは当然といえる)

砂時計が割れた時、大洪水になってしまう。それを兵器と呼ばずして何と呼ぶのか。

ルイスに砂時計を入れたとき、魔法は全てリヒターに任せた。彼は魔法の使い手ではなかったが、魔力を扱えなくても兵器を作るのは簡単だと言っていた。

(魔力の元になっている魔族から直接供給される魔法ならば……リヒターができたのも頷ける)

それとは別に、だが、リヒターは実験方法を研究していくうちに、頑なにアレストにルイスの砂時計を扱うことは自分にやらせて欲しいと言うようになった。

ーぼっちゃんが触ってはいけないものですから。

(……俺が復活したのが『砂時計の共鳴』……人間が変換された魔力の混ざり合いならば……)

リヒターがアレストにルイスの砂時計を触らせたくなかったのは、魔力の共鳴が起きることを危惧していたからか。

(プラスの結果を呼ぶとは思わなかったが)

マイナスの結果が先に浮かぶほど、魔力の混ざり合いは禁忌なのだろう。

(いや、混ざり合いが……じゃないな。魔力の人為的操作そのものが、だ)

砂時計のために人間を砂にすること……。

(……そうか、もっと根本的な……!砂時計の呪いの供給元になった存在が『人為的』に魔力を操作されたのか)


ー大陸には元々魔族がいて、それを封印した。

ー人為的に操作された魔族は、攻撃的になる。


(繋がったぜ。そうか、砂時計の呪いの正体は……正真正銘、兵器だったのか)


何のための?


(ストワードの兵器だ。それをシャフマが『信仰』のために奪い、魔力を操作して砂時計を創るための素材にした)


アレストが拳を握る。


(……ストワードが封印した強大な魔族を、シャフマが信仰のために……建国のために使った……)


あぁ、ふたつの国の因縁は、こんなにも……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る