第4話

「……なんだ?急に霧が……」

リーシーたちが霧の深さに気づいた時、アレストもまた真っ白な霧に動揺していた。

「くっ……白魔法か!?しまった、対抗魔法を先に張っていなかった……!」

アレストが左腕に力を入れて脳内で呪文を唱える。

(最近戦闘がなかったから、呪文を思い出せない!……だめだ……意識が……)

その場にドサリと倒れる。


「……」




……頬に柔らかな毛の感触。猫だろうか、犬だろうか……。

(あたたかい……)

アレストがゆっくりと目を開けると、視界いっぱいに銀色の毛が映った。

「っは……っ!?ここは!?もふっ!?」

狼だ。アレストを背中に乗せて運べるほどの大きさの。

「な、なんだ!?止まってくれ!!!くっ、口に毛が入る!!」

「人間!」

男の声だ。狼が止まる。

「人間の声だ!お前、人間だったのか!?」

アレストが狼の背中から降りる。霧は晴れていたが、まだ山の中のようだ。

「人間だぜ。見ればわかるだろう。……って、今のあんたが喋ったのか?狼、だよな?」

「そうだ。オレは狼だ」

狼の口が動いている。見た目は人形の腹話術のようだが、狼が喋っているらしい。

「お前は本当に人間か?擬態しているわけではないか?」

「擬態?俺はこれ以外の姿はないぜ」

「そうか。そうなのか!だったらオレの勘違いだった。ごめんな」

狼が下を向く。しょぼくれた犬のようだ。

「……いや、ええと、仮に人間じゃなかったらさ……俺をどうするつもりだったの?」

「対話するつもりはあった。だが、魔力で対抗されたら困る。だからこっち側に連れてきた」

「こっち側?」

「フートテチの魔族の境界内だ。オレたちは自分の土地を持たないからな。こうして引き込むんだ」

「なるほど。じゃあここは『そっち側』ってわけだ」

見た目はさっきの山道と同じだが。

「そうだ。……あっ」

狼が素っ頓狂な声を上げる。

「ま、まてまて。オレ、もしかして相当喋ってる?」

「あぁ」

「魔族とか境界とか、お前の知らないことも全部言ってる?」

「そうだねェ」

「ごめん、忘れて」

「いやいやちょっと、連れて来てそれはないだろう。くくくくっ」

「あ!笑った!」

「ギャハハ!!!ギャハハ!!!フートテチには喋る狼がいるのかよ!面白いじゃないか!ヤバ!ヤバ!!!……もうちょっともふらせてくれない?」

「ダメだ!」

「ちぇっ」

「……でも驚かないんだな。魔族とかいきなり言われても。普通の人間がたまに迷い込むと、モノノケだのバケモノだのオニだの言って走って逃げてくのに」

「まぁ、人外めいた物にはたくさん会っているからねェ。ちょっと前のシャフマでは毎日のようにたたかっていたし」

まぁ、その全てが元人間だったわけだが。とは言わずに目を伏せる。

「シャフマ……?てっきりお前はストワードの魔族かと思ったが違ったのか」

(ストワード?何故だ?砂時計の呪いは解けたはずだが、それが少しでも匂いとして残っているのをこいつが嗅ぎつけたのならばシャフマの魔族のナントカとか言うんじゃないか?)

「まぁいい。人間、名を教えてくれよ。久々に人間と話せて嬉しい。オレはジュノだ」

「俺はアレストだ」

握手をしようと腕を伸ばして気づく。狼と握手はできない。

「……」

アレストは何も言わずにジュノに抱きついた。

「わっ!?」

「シャフマの挨拶だ」

抱きしめて、頬をスリスリする。もふもふが心地よい。

「そうか、挨拶ならまぁ」

ジュノの柔らかい銀の毛がアレストの顔を撫でた。

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