第2話

「この大陸に最初に文明を持ってきた人を知っているか?」

「最初?何年前の話だ?」

「2000年ほど前だと言われている」

「知らないねェ……」

「その人物は、魔族のいたこの地に人間の文明を築いたのだ」

「魔族、か」

アントワーヌがアレストの顔をちらりと覗く。

「驚かないんだな」

「実は会ったことがあるのさ」

「え?」

「あんたも何回か会ったことがあるかもねェ……ふふふふふ」

「やはりいるんだな」

「ストワードでは魔族や神を信じることは悪い。それくらい俺だって知っているが、あんたは信じていたのか?」

「ボクは……正直、信じてはいなかった。魔族は伝承のみの存在だと」

「俺のことは受け入れていたじゃないか」

「君はとても人外には見えないからな」

「ストワードの魔族は野蛮な種族じゃないのか?俺はどう見ても野蛮だろう!ギャハハ!!」

破顔して大声で笑うアレスト。アントワーヌは悲しい顔をする。

「アレストの野蛮な行為は深夜にバターを揚げて食べたり酒を飲みすぎて倒れたり……の程度だろう」

「……いや、シャフマを崩壊させて何人もころしたぜ」

「それは、正義があったからだ。違うのか?」

アントワーヌの真っ直ぐな瞳がアレストを見据える。

「ふふふ、ありがとう。あんたからそう見えていたのならば何よりだ。体を張った甲斐がある」

「ストワードの伝承の魔族は、理由もなく人をころし尽くす存在なのだ」

「……だから、封印したと。今はそんな野蛮な魔族はいないから魔族の話はタブーだし、魔族を封印したストワードの初代国王は英雄だと」

「よく知っているな」

「あぁ、これでも一応元王子サマなんでね」

アレストが苦笑する。

「君の言う通りだ。ボクも『魔族は野蛮な種族だから、ボクのご先祖さまが封印してくれたのは嬉しい』と思っていた。実際どうかなんて分からないのにな」

「いや、そんなものさ。歴史というのは時代が下るにつれてどんどん違う書き方をされる。そこに誰かの思惑があるなら尚更さ」

「……ストワードの王族は、魔族を利用して権威を高めていたに過ぎないのだ」

「そう悲観的になるなよ。あんたの悪い癖だぜ」

「……」

「魔族というのは俺たち人間とは違う見た目をしているんだろう。それを警戒するのは当然だ。あんたも言っていたじゃないか。正義は移ろうものだって」

「あぁ、そうだったな……」

アントワーヌが深呼吸をする。

「ボクは……王族の本当の歴史に気づいて君に協力をすることを決めたのだ。それは弟の死がきっかけだった」

「あぁ、あの緑の瞳の……」

「覚えているのか?アレスト」

意外だ、とアントワーヌが目を見開く。

「瞳の色だけだ。あんたと違うのが気になっていた」

「……血は繋がっているはずなのだが、ボクたちはあまりに正反対だったからな。……ん?」

扉をノックする音。

「あぁ、もうそんな時間か。すまない。明日も早いのだ。続きはまた明日でいいか?」

「いいぜ。迎えに来たのはあんたの嫁サンか?」

旦那様、お時間です。と、高い声が聞こえる。アントワーヌは慌てて立ち上がった。


「それでは、また明日の晩会おう」

「あぁ。待っているぜ」

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