第2話 六人の少女
「貴方が私達の番で間違いないんですよね?」
おさげの少女があまりにも真剣な眼差しで言ってくるので光陽はたじろぎ一歩後ろへ後退りしそうになってしまう。
「つ、番ってなんのことですか?」
光陽が動揺を隠しきれずに言うと少女達は顔を見合わせる。
「・・・君に送った案内書をちゃんと見なかったのか?」
「案内書?」
先生は頭をぽりぽり掻きながら呆れた様に言う。光陽だってちゃんと送られてきた案内書は何度も見た。何なら咲良にだって見せたしそれを見た咲良は嬉しさと悲しさの入り混じった様な声で泣くからそれを慰めるのに必死でどこか見逃しがあったのかもしれない。
光陽はカバンから紙を取り出すとそれを再度上から辿っていく。しかし辿っていく最中にある文字が光陽の目に止まった。そこには小さく『しかしこの紙が送られてきた者は運命の番を選んで貰う(番)クラスへと行ってもらう』と書かれてあった。
「つ、番!?」
待て待て、どういう事だ。こんなの聞いてないぞ。
光陽は何度も心の中で番の文字を連呼する。
番・・・つまりこの中から奥さんを選ばなければならないらしい。しかし自分はまだ高校生になったばかり。子供とまではいかないが大人と呼ぶにはまだ程遠い。もう少し猶予をと思ったが、先生を含む皆は待ってくれない。
「じゃあ委員長、後は頼むぞ」
「えぇ、おまかせを」
「ちょっ、先生!?」
唯一の男であり頼みの綱であった先生は光陽の呼び掛けに答えず直ぐ様教室を出て行ってしまった。先生が居なくなった事で不安が一気に加速した光陽はその場で膝を吐く。
その時幾つもの視線を感じたが今の光陽はそれに構える余裕はなかった。
そんな光陽を見ておさげの少女は溜め息を吐くと落ち着いた声で光陽に向けて口を開く。
「・・・初めまして、瑞樹さん。私はこのクラスの委員長をやらせて貰っている
右手を胸元に置いてお辞儀をする少女、歌に個性的な笑い声で指摘したのは黄色い帽子を被った少女だった。
「あははっ!うーたん、硬すぎ〜。そんなんじゃ番に選んで貰えないぞ☆ボクは
海笠は自身の帽子を人差し指でくるくると器用に回す。他の人とどこか違う海笠を光陽はジッと見つめるがまだ二名。後残り四人の少女が控えてる。光陽は海笠の少し後ろの少女に視線を移した。光陽に指名されたと思った黒髪の少女はゆっくりと立ち上がった。
「・・・
それだけ言うと羽奏はすぐに席に座る。そんな彼女にブーイングするのは海笠だった。
「えー!それだけぇ!?みなみん、硬すぎるよ。はい、負け決定!」
つまらないことが大嫌いな彼女は羽奏の自己紹介が不満の様で足をジタバタとさせながら戦ったわけでもないのに既に負けを言い渡していた。
そんな海笠を羽奏は横目で睨んで素っ気なく返す。
「親しくもないのにペラペラと自分の事を話すなんてどうかしてるわ・・・はい、四条さん」
羽奏は一蹴すると髪の毛を弄ってる金髪の少女に声を掛ける。
「はーい、紹介に与りましたー。
「あの…近くないですか?」
千鶴に腕を絡め取られ至近距離で彼女に見つめられた光陽は頬をほんのり紅く染めた。
「四条さん、ふしだらすぎです」
歌に注意された千鶴は渋々光陽から身を引いて端っこで蹲ってる少女に声を掛けた。
「紬ちゃんも挨拶ぐらいしたらどうかしら」
千鶴に呆れた様に言われるとブロンドヘアの少女はゆっくりと顔をあげるが光陽を視界に入れた途端に再度勢いよく俯いてしまう。その態度に光陽はもしかしたら自分と仲良くしたくないんだと思ったがそれはどうやら違うようだ。少女は元々白い肌を更に白くする。心なしか体が少し震えてる気がした。
「・・・
少女はうさぎのぬいぐるみを抱き締めてか細い声で言った。
「じゃあ最後は私ね!このクラスの陽キャ担当、
紫のポニテールを揺らしながら自己主張をしだす仁奈を見て凄く元気がある子だなと光陽は思った。その中に潜んでる闇に気付かずに。
「では自己紹介も終わった事ですし、瑞樹さんに誰が良いか決めて貰いましょうか」
「はぁ!?」
あまりの展開の速さに光陽は今すぐこの教室を出て最愛の妹に会いたい気持ちに駆られる。しかし咲良は光陽が居ない寂しさを埋めようと光陽のTシャツに埋もれて眠ってる為、いつもの兄センサーが働くことはない。この場に光陽の味方は居ないのだ。でも会って間もない彼女達から選ぶことはしたくなかった。光陽は息を呑み込むと彼女達の圧に堪えながら重い口を開く。
「確か、番を決める期限は三年・・・今選ぶべきではないと思う」
「っ、ですが!」
案内書には三年間のうちで決めて貰うと書いてあった。それは彼女達も分かってる筈だ。それなのにどうしてそんなに焦ってるのか光陽にはちっとも分からなかった。
「でも私はそろそろ此処を出たいな〜?」
しかし千鶴は机に寝転びながらも不敵に微笑みながら言う。
「え、そろそろ?」
その言葉はまるでずっと此処に居るかの様だった。そんな筈ない。だって此処に居る者は全員、新入生なのだから。
しかしそんな彼女を肯定する様に言ったのは羽奏だった。
「えぇ。私達はもう何年も此処から出れてないわ」
羽奏の言葉に光陽は目を見開き固まってしまう。
♢♢♢♢♢♢
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