第11話 【蛇足】長男と末っ子

 長男と末っ子だ!!!!


 マリアは心の中で叫んだ。





 マリアは、陛下から例のオペラグラスが返却された日、同じ時期にグランデ帝国に輿入れするロキシーと共にとある部屋にこもっていた。


 部屋いっぱいに並べられた生地を、王家御用達の職人達が説明していく。

 全ては二人のウェディングドレス用のサンプル生地であった。


 傍らで見習いらしき10歳前後の少年が、ひっきりなしに生地を運んでいる。


 随分若いわね。

 見習いかしら?

 綺麗な顔立ちをしているわね。


 その様子を何気なく見ていたマリアは、ドアのすぐ横に立つ見慣れない騎士の姿が目に入った。


「ねえロキシー。あちらの護衛、初めて見るのだけれど?」

 焦げ茶色の短髪に顔は中々整っており、鍛え上げられた身体はさぞやご婦人にもてるだろう。


 しかし、何故だかやたらと顔色が悪い。


「ああ、彼ね……」

 ロキシーは小声でマリアに耳打ちした。


「ジンの護衛をしていたのだけれど、自ら辞職願いを出してね。余りにも優秀だったからお願いして私の護衛に就いてもらってるのよ」

「そう……」

「噂では、とあるご令嬢に薬を盛られて襲われたらしいわ」

「えっ……」

「未遂だったらしいけど、その時の心の傷が癒えていないようでね」

 それはご愁傷さま。

 しかし最近のご令嬢は積極的ね。


 彼の顔をしっかり見ようと、マリアは何となく今日返却されたオペラグラスを覗いた。


「……っ」

 長男と末っ子!!


 大声を出さなかった自分を褒めてあげたい。

 マリアはグッと息を飲んで耐えた。


 しかし、そんなマリアにロキシーは驚いた。

「突然どうしたの?」


 するとマリアは無言でロキシーにオペラグラスを手渡し、扉の方を指差した。


「え?え?見ろってことかしら?」

 ロキシーは不思議に思いながらもマリアに従い、オペラグラスで扉付近を覗いた。


 そこには、例の顔色の悪い護衛騎士と、両腕に大量に生地を抱えた見習いの少年がいたのだが……。



「長男と末っ子だわ!!」



 突然のロキシーの声に、周囲にいた護衛、侍女、商人達が驚いてその場で静止する。


「あ、いえ、こちらの話ですわ」

 ロキシーは苦笑しながら彼等に作業を進めるよう促し、改めてオペラグラスで彼等を確認した。


 そう、彼等、顔色の悪い護衛騎士と、10歳前後の商人見習いらしき少年の額には、しっかりと黒色で数字が書かれていたのだ。



 ドアの前の騎士は1/16

 生地を持った商人見習いの少年は16/16


 彼等の股間からは、どこに続くともなく伸びる黒い魔力の糸が垂れ下がっている。


 完全なる長男と末っ子。

 マリアとロキシーはしっかりと握手を交わした。



 しかし……。

 二人ははたっと気付く。


 黒色って事は、男性側の同意無しに無理やり……?

 それとこれ、護衛騎士の方、未遂じゃないわよね……。

 と言う事は、騎士に薬を盛ったご令嬢って……。

 いや、それより10歳前後の子供を相手に……。

 いやいや、それよりも分母の数字、あれからひと月もたっていないのに倍以上に増えて……。



 ロキシーとマリアはお互い目線のみで会話し、そっとオペラグラスを机に置いた。


 これ以上の深追いは止めましょう。


 しかし、コロン嬢……恐るべし。

 ここまで来ると、既に2人はコロン嬢を称賛する域に達していた。




 そんなコロンは、しばらく後に学園を中退させられ、男爵家からも追放され、自らの母と同じ娼婦となる。


 趣味と実益を兼ねた職業は天職だったようで、彼女はそれなりに幸せに暮らしているそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る