掌編小説・『PASTA』

夢美瑠瑠

掌編小説・『PASTA』

(これは、2019年10月25日「パスタの日」にアメブロに投稿したものです)




 掌編小説・『パスタ』


 PASTA、つまりPsychological Androids' Sacrifice Treatment Agency は、人間の「暴力衝動」というものを、多方面から総合的に分析して、適切に解消して、犯罪やいじめ、その他の社会問題を解決していこうという趣旨で設立された研究機関である。

 いわゆる人間の「悪」一般は要するにこの「暴力衝動」に起因する。

 ローレンツの「攻撃」にもあるように、動物の制御されているそれとは違って、この狂った攻撃衝動が、人間の場合にはともすれば暴走して、エスカレートすると戦争や大量虐殺すら生じてしまう。これは歴史上の常識だ。

 バイオレンスが主題の色々なドラマや映画、小説の存在はこういう暴力的な衝動というものが、普遍的に人間精神の一部となっていることを証明している。


 なぜ「狂って」しまったのか?そうした理論的な分析も、PASTAは行っているが、ともかく、歪んだ暴力衝動に発露する様々な犯罪や社会悪、そうしたものを撲滅しようという、そういう活動が主体なのである。


 数年前に世界中のあらゆる<A・I>の学習した知見や機能を全てネットワーキングを通してインテグラルして、殆どあらゆる人類的な解決困難な問題に最適で最良な、模範的な回答を即座になしうる、全知全能の神を具現したような知的な怪物、

その名も「Zeus」が、開発されて、実用化された。


 全人類のあらゆる知識、情報、動静、科学的なメソッド、そうした「知」というものを網羅、集大成してかつリアルタイムに進化し続ける、その怪物的な知性が遍在しえたことで、社会は変わりつつあった…


 そうして、PASTAの活動も、「Zeus」によって変わった。


 これまでは、ナイチンゲールよろしく、DVやモラハラで心の傷、身体的な被害を被った人々を地道にケアすること、そうして加害者も適切に善導すること、が主だった仕事で、現代では福祉的な活動を中心的に担っているアンドロイドロボットが、そうした「歪んだ暴力衝動の犠牲者」を、救済するために、献身的に尽力をする…


 それがPASTAの元々の意味で、「暴力犠牲者ロボット救済組織」と、和訳されていた。


 が、「Zeus」に、団体としての効果的な活動についての指針を教示してほしい、そうお伺いを立てると、アンドロイドの使用法についての、根本的な転換が示唆され、

その後は、「暴力的衝動の処理」の方法論は、コペルニクス的に変わった。


 つまり、被害者のケアも大事だが、臭いにおいをもとから立つような、加害者の精神的な歪みというものをアンドロイドを使用して抹消させる、そのほうが科学的で確実だということになったのだ。


… …


「いやいやーご主人様、暴力はやめてー!」

「ひひひ、この別嬪なロボットめ!こうしてやる!こうしてやる!」

「ああん、痛い!許してー許してー」

「許すものか!ぶっこわしてもいいんだってな。心ゆくまで責めさいなんでやるぜ!」

「ああん、壊れちゃう…こんな残酷なご主人様なんて…ひどすぎちゃう」

「泣き出したな。へへへ。メイド服をビリビリにしてやろうか。それにしてもPASTAってのは随分おつなサービスをするぜ。こうやって暴力衝動を発散し続ければおれもどうにか真人間になれるかもな…」


<了>

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