第24話 今後ともよろしくお願いしますって感じだな
一度教室に戻って小休憩を挟んでから、ユナの借り物競争に備えてグラウンドへ。
ユナは選手なのでテントで待機。
俺と桐谷、朝比奈はコースの外側から応援することになった。
グラウンドでは体育祭の運営委員がせわしなく競技の準備をしている。
円滑に進めようとしているのだろう。
少しすると準備が整い、借り物競争が始まった。
ユナの出番は三組目。
なので他の組を見ながら待つことになる。
借り物競争……その名の通り指定された物を借りてゴールを目指す競技で、どちらかといえば運動能力よりも運が試されるものだ。
指定される物の内容は運営委員が決めているらしく、参加者は声を張り上げて物を貸してくれる人を探していた。
中には『異性の』とか『身長何センチ以上』とかの指定もあるらしく、探すのに苦労することもあるらしい。
意外にも盛り上がりを見せる借り物競争は順番が進み、ユナの出番がやってくる。
スタートラインに立ったユナ。
よーいどん、の合図で一斉にスタートし、少し走った先にある机に置かれている裏になったお題のカードを捲っていた。
どんなお題が出たのかと気になっていると、ユナはきょろきょろと周囲を見回す。
そして――目が合うなり、俺の方へと駆けてくる。
「エイジ、来て」
「俺? お題なのか?」
「ん。異性で一番仲がいい人」
「あー……なるほど。わかった」
そういうお題なら仕方ない。
ユナの手を取って、
「ちょっと行ってくる」
桐谷と朝比奈に見送られ、二人でゴールを目指す。
走る速度はユナに合わせて転ばないように調節し、途中で二人に抜かれながらも三位でゴールテープを切った。
委員から三位の札を受け取って、待機場所になっていたテントへ戻る。
「お疲れ様」
「……一位じゃなかった」
「順位は気にしてないよ。怪我もしてないし、二人でゴールできてよかった。あと、一番仲がいいって思ってくれてて、嬉しい」
息を切らしながら俯くユナの頭をぽんぽんと軽く撫でる。
どうせなら一位が良かった気持ちもわかるけど、それよりも二人でゴールできたことの方が思い出に残る気がした。
それに、お題のことも。
転校して日が経っていないとはいえ、一番仲のいい異性として俺を選んでくれたのはとても嬉しく――同時に、そう見てくれているんだと意識してしまう。
だけど、ユナは顔を上げながら首を緩く横に振って、
「……異性のって条件がなくても、エイジを選んでた」
当たり前のように、そう言う。
信頼であり、信用であり、親愛を込めた微笑み。
「……今後ともよろしくお願いしますって感じだな」
「こちらこそよろしくお願いします……?」
「お願いされなくても離れないって。俺が一緒にいたいと思ってるんだからさ」
紛れもない本心だった。
俺がユナといるのは俺の意思で、決定で、誓いだ。
もう目を離さないように。
寄りかかれる場所になるため。
二度と同じ過ちを繰り返さないように。
「……ユナも、同じだもん」
口先だけを尖らせて、柔らかい表情のまま呟いたそれに、胸の奥から熱くなったような感覚に襲われる。
ユナを手の届く場所に置いておきたい。
誰にも見せずに、自分だけが見ていたい。
独占欲じみた思いと、その在り方を愛おしく思う気持ちが一緒くたになって、思わず両手が伸びた。
衝動。
それをユナに触れる寸前で留めて、さっきまで握っていた手を握り直す。
力を込めれば折れてしまいそうなほど華奢で繊細な手。
「……ほら、ゴールしたし戻ろう。弁当食べるだろ?」
「ん。今日は玉子焼き多め。楽しみ」
いつになく上機嫌なユナと手を繋いだまま帰る途中、凄い視線の量を浴びていたけれど、あえて気にしないことにして教室まで戻るのだった。
普段より多く作った大箱の弁当で腹を満たし、午後の部に臨む。
午後の競技は男女別の棒倒しと騎馬戦、そして選抜リレーだ。
俺も騎馬戦に出ることになっているし、やるからには勝ちたい。
白熱した棒倒しを観戦し――相手の棒を見事倒した朝比奈の姿に拍手を送ったりして、次は騎馬戦が始まる。
出場までの時間で作戦を確認しつつ、本番。
どうしてかあたりが強い相手の騎馬から足の三人で協力して逃げ回りつつ、隙を見て上に乗った一宮が命代わりの帽子を取り、こちらも勝利を収めることに成功した。
「ナイスファイト、篠原」
「三人もだな」
騎馬を組んだ四人で拳を軽くぶつけ合って喜びを分かち合い、思い出の一ページとして刻む。
二試合目、三試合目と続いた騎馬戦はユナたちと合流して観戦した。
客観的に見ているとよく怪我をしなかったなあと思うプレーが多く、つい苦笑してしまう。
多分、俺が参加していた試合もこんな感じだったのだろう。
男子の騎馬戦って結構激しくぶつかるからなあ……ユナが参加したら簡単に吹き飛ばされそうだ。
「……さて、と。リレーが始まるから僕と朝比奈はいくよ」
「応援しててねーっ!」
リレーに参加する二人に激励の「頑張れ」を送って、ユナと二人だけで残される。
「俺たちも行くか。応援するなら早くしないといい場所取れなくなるし」
「ん」
そこそこ早くグラウンドに来たものの、目玉の種目だからかかなりの数の生徒が集まっていた。
人だかりを掻き分けて最前列に並ぶのは難しそうだし、できても窮屈な思いをしそうだ。
ユナもいるし、できればゆとりがある場所で見たい。
ぐるりとグラウンドを見渡し、傾斜になっている当たりが空いているのに気づいて、そっちに移動する。
芝の地面に並んで腰を下ろす。
残暑と呼ぶべき温度と眩しい日差しを浴びながら、ユナが「ふぁ……」と耐えきれなくなったように欠伸を一つ。
「疲れたか?」
「……少し。動いたし、暑いし」
「この暑さはちょっとしんどいよな。夜は冷たいのにするか。つけ麺とかどうだ?」
「そうしよ。今日はあんまり動きたくない」
こてん、と首を肩に預けられる。
そよいだ風が前髪をさらって、額の肌色が露わになった。
「寝るなよー。リレーで最後だし、二人が出るんだからさ」
「……ん」
目を細めつつあるユナの眠たげな様子に苦笑しつつ、リレーが始まる直前で起こして応援をするのだった。
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