第7話 気分を変えるために走り出して

「ノエルさん、機嫌はどう?」

 食堂から出た後、ミコトと一緒に職員室にいたヒカリを尋ねたノエルに、職員室にいた人達が驚いた表情をしている

「……あまり良くないです」

 あちらこちらから視線を感じ少しうつ向き小声で答えるノエル。それに気づいたヒカリがニコッと微笑む

「まあ、ミコトさんに勝手に連れてきたみたいだからね。仕方ないわ」

「ちゃんと許可取って連れてきたんですよ!」

「私達に許可取っても、ノエルさんにちゃんと説明して連れて来ないとダメですよ」

 話に割って入ってきたミコトに、少し怒りながら言い返すヒカリ。それを聞いてミコトがプイッと顔を横に背けた



「さて、ノエルさん。聞きたいことはありますか?」

 ミコトにもニコッと微笑むと、まだうつ向き気味のノエルにヒカリが優しく問いかけると、少し顔を上げるとまた小声でヒカリの質問に答えた

「えーと……。お家に帰りたいのですが……」

「お家?どっちのお家かしら?」

 と、ヒカリに質問を返されてノエルが首をかしげているとミコトが、ノエルの顔を横から覗き込みながら話しかける

「こっちにもお家があるんだよ。後で行ってみる?」

 ミコトの話に驚き振り向くノエル。すると、ミコトの言葉を聞いたヒカリが机の上にある資料を探り出した

「そうですね。この資料も渡すから、読みながらノエルさんの家に行ってみるのも良いかもしれませんね」

 そう言いながら、次々とノエルに資料の紙を手渡してくヒカリ。どんどん渡し続け、両手一杯の資料にノエが少し困った顔で足元がふらつきはじめた

「重っ……」

「あっ、そうか。魔法使えないんだよね」

 資料の重さに耐えようとするノエルの動きを見たミコトが、ノエルの持つ資料の一番上に手を乗せた。すると、たくさんあったはずの資料が一瞬で消えてしまった

「これで良し!ノエル、行こっ!」

 呆然としているノエルをよそに、手を強くつかんで職員室の出入口に走り出したミコト

「二人とも、廊下は走っちゃ行けませんよ」

「分かってます!先生、また明日ね!」

 ヒカリに返事をしながら、バタバタと足音を立てて廊下を走り去っていった





「さっきの便利だね。あんなたくさんの資料を消すなんて……」

 廊下にいた生徒達がノエルとミコトの走る様子を呆気に取られながら見送るなか、ノエルが少し息を切らしながら話しかけた

「あんなの普通だよ。この世界じゃ、みんな出来るよ」

「……そうなんだ」

 ミコトは走り疲れた様子もなく返事をするが、ノエルは大分疲れてきたのか、息も絶え絶えで返事をする。それに気づいたミコトが、階段を駆け下りて玄関前に着くと突然足を止めた。勢い止まらずミコトの背中にぶつかったノエル。顔を手で覆いながら少しフラフラと後退りしていると、ミコトがくるりとノエルの方に振り向くと、何か思い出したかのように、両手をパンッと叩くとノエルにエヘヘと微笑んだ

「そうだ。ノエルのお家に行く前に、テスト免除のご褒美に、今度こそ街に行って、デザート食べに行こう」

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