第5話

 あれから……アイツ等は何も言って来ない。

 散々嘲笑って、勝手な事を言っていたのに……。


 ……やっぱり……


 銀孤が言っていた様に五人共、大神様の八つ当たり天罰で、死んでしまったのだろうか……。

 やっぱり気に掛かって、何度か神社に行こうかと思ったが、どうしてもに行く事はできないでいる。その為遣いめの銀孤にも会えずに日を過ごしている。


 ………あの夜銀孤は自宅まで送り届けてくれて、両親達が不審に思わない様に呪文を唱えて、あの可愛いモフモフのまま暫く一緒に居てくれた。

 そして大神様の事や不思議はもの達の話を、面白可笑しく話してくれた。

 その不思議な話に何故だろう……気持ちが癒されて行く……

 決して無かった事にはならないのに……時を戻してはくれ無いのに……

 銀孤の優しい声音が、有り得ない話が、何かの呪文の様に催眠術の様に………

 穏やかで心地よい声音に、明け方近くに眠りに就いた……知らず識らずの内に眠って目覚めると、銀孤は居なくなっていて、少年達に力ずくでいたぶられた躰には、何も無かったかの様に全ての跡は残っていなかった。ただ苦痛が心に残っていたから、だから決して無かった事にも、時を戻してもらってもいない事を理解させられた。

 それでも銀孤に遭いたいが、どうしても神社の在るあの森には行かれない。塾に行くのも違う道を通った。

 ………銀孤にも遭えぬまま時は過ぎて、どうしても行きたかった大学に、無理かもしれないと思いながらも受験して入学する事ができた。

 そしてそれは楽しい大学生活を送り、希望の企業にもあっさりと就職が決まり、大学卒業と共に独り立ちする為に家を出る事となった。

 そんなある日、ずっと忘れた様に来る事もできなかった神社に、今日は不思議とやって来れた。


 ……あれから一度も、アイツ等には遭う事は無かった……


「おっ、あの時の少女ではないか?」


 古びた社の前に立つ精悍な青年が、それは心地良い声音を投げかけた。

 聴きたくて聴きたくて堪らなかった、その優しい声音に思わず顔が綻んだ。


「元気そうでなによりだ」


「……とても元気にしてました」


「そうか?それは何よりだ……」


 銀孤は、その美しい瞳のままに少女を見つめた。


「……その後彼奴らは、何もせなんだだろう?」


 明るく言う銀孤に反して顔容が歪む。


「……死んだんですか?」


「いや、さすがに……しかしお決めになられたら、譲る事を知らぬお方でなぁ……」

 

「えっ?……じゃ……」


「ああ……何人か死んだからな……恐れ慄いて其方にもはや、非道な事はできなかったのだろう……大事な人間が死んで、余儀なく引っ越した者もおるしな。ああ、だがまだ終わっておらぬのだ……それはサッサと、事を終わらせられるお方なのだが、そこの処はどうにかお時間を頂いてなぁ……」


 銀孤は、大きな溜め息を吐いて笑った。


「それと反して、そなたが幸せならば何より……」


「私が幸せなんて、なんで分かるんです?」


「そ、それは……私が護っておるから当然であろう?」


「えっ?」


「そなたは今生で唯一、私の大事なる乙女ものであるからな」


「えっ?だったら……」


「ゆえにそなたには、縁の神にお頼みし良い縁を頂いておるからな、安心して縁づくのだぞ」


「……………」


「そなたに言いよるものは、全て縁の神のお墨付きであるからな、好きなのを選ぶとよい」


「………そうですか?……そうですね?銀孤さんの様に可愛くて優しくて、素敵な声の人を選びます」


「わ、私の様にか?」


 銀孤は、はにかむ笑顔を浮かべて言ったが


「大神様がお待ちゆえ行くぞ?元気でな……」


 少し憂いのある表情を作って、手を振った。


「私も……私も此処を離れるので……だから、暫く来れなくなります。大神様にお礼を……」


「大神様に?」


「あの時銀孤さんを、私の側に残してくれて……本当に感謝しています」


 銀孤は、憂いのある表情のまま笑みを浮かべた。

 

「そ、そうか?そうお伝えしよう……元気でな……」


「……はい……」


 銀孤は、古びた社にスゥーと姿を消した。


「……………」




 ……………………微かに古びた社が揺れる……………………



「銀孤よ……」


「はい……」


「あの少女ものが泣いておるぞ?」


「はい……」


「私が許せば、嫁にもらえるぞ?」


「……………」


「……まぁよい……も少し様子を見ると致すか……今日は、天の神あちらを遣り込めてやったゆえ、実に気分が好いからな……に、猶予を与えてやると致そう……互いの気持ちをシカと知るのだな……私は独神ゆえ、に関して疎いゆえ、縁の神に委ねると致そう……」


「有り難き幸せにございます……」


 神妙に答える銀孤に、大神様は意味ありげに微笑まれた。




……大神様の八つ当たり……終……

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大神様の八つ当たり 婭麟 @a-rin

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