第4話

「……で、私は側付きなので、ご注進致さねばならない。さすがに腹癒せで35人はまずいし、火山の噴火など以ての外だ……」


「………」


 少女は瞳を潤ませて、銀孤を見つめた。


「とにかく、七人で留めて頂きたい…」


「えっ?」


「其方には申し訳ないが……」


「……じゃなくて、人が死ぬんですか?」


「ああ……先も申した様に、最早五人は死んでおるであろう……」


「うそ……」


 少女は唖然として、銀孤を見つめ続ける。

 なんて人の命って、呆気無いんだろう……。


「あーだから、あと二人か……」


「五人は死んでるって……?」


「だから言ったであろう?あのお方の事ゆえ、奴らが恐れ慄く事をされておられるはず……。私が忠告した様に、大事な誰かが死んでおる事であろう……まっ、其方は奴らが全員死んだ方が、気も治ると言うものだろうが……」


「マジで死ぬの?……」


 少女は、顔面を蒼白にして俯いた。

 確かに殺したい程憎らしい。罰が当たって死ねばいい。

 一生阿鼻叫喚の地獄で、のたうち回ればいい……。

 本気でそう思う。


 ……けど、本当に死んでしまう人がいるなんて……


 そう思いながらも、先程の屈辱と痛みは忘れていない。

 ヤツらの嘲るような笑い声も顔も……。

 死ぬよりも辛い思いをして、苦しみ抜けばいい。

 さっき自分が乞うた様に、〝助けてくれ〟と叫べばいい……。

 己がした行いを悔いればいい……。苦しみながら、赤い涙を流しながら……。

 そう心底思いながら、なぜか本心から〝ザマアミロ〟とは思えない。

 そんな話し本当じゃない……と思いたいけど、目の前の銀孤は?

 人間だった銀孤は、一瞬にして銀色狐になった。

 それも狐より、少し猫に近い様に可愛く変身している。

 それは、辱めを受け傷ついた少女を、少しでも怖がらせぬ為に、少女達が好むモフモフとした可愛い系にする為に……。

 そんな銀孤が、大きな耳と尾を揺らして見つめている。

 身体に触れると、ふわふわとする肉球を見せて。

 その愛らしい顔に似合わない、怖い話しをする。


 ……七人の人間が死ぬ……


 ろくでも無いヤツらだけど、死んでしまえばいいと思うけど……。

 少女は、缶コーヒーを手に俯いてしまった。


「……やはり気が収まらぬか?」


 銀孤は、隣でめちゃ可愛い顔を向けて呟いた。


「……ならば、ヤツら五人は完全に殺すか?」


「えっ?」


 肉球を、少女の眼前に見せる。


「其方の恨みをはらす……」


「……じゃ、十人って事?」


「……そういう事となるか?見せしめとして五人……ヤツらで五人……」


 銀孤は肉球に足し算をしながら、いとも簡単に言った。


「其方の気も収めてやりたい……さすがにヤツらは死をもって償うべきか……なら気も収まろう?」


「……凄く憎らしいけど……死ぬ話しは……」


「乙女には酷な話しではあるが、何せ大神様の八つ当たりであるからな……」


 銀孤は、顎に肉球を持っていく。


「大神様って、お怒りが収まる事はないんですか?」


「はて?収める?火山を噴火させて収められるとか……地滑りをさせて収められるとか……地面を揺らすはお怒りの印であるし……」


 パタパタと大きな尻尾が、朽ち果てたベンチを叩く。


「……それらって、大神様のお怒りでなってたんですね?」


「おっ!違う違う。大体が自然現象だ。だが、時たまそーゆー理由わけで、なっている事も


 少女の眼前で、二つの肉球が左右に揺れる。

 

「おお、そうだ!大神様にお任せいたそう……どうせ大神様のである」


 少女が、銀孤を仰ぎ見る。


「よいか?私は大神様にご進言申し上げる。とにかく七人として頂く。大神様は物凄ーく渋られ、五人に七殺だと主張されるが、それはお止めする。だが、それら諸々の事は、其方には最早関わりは無い。五人死のうが、三十五人死のうが、違う人間が代わろうが、それは大神様の七殺だ。よいか?大神様は七殺はされるのだ。言われたからには、最低七人は殺されるのだ。だから其方には全く関係が無いのだ。其方の恨みとかもお構い無しなのだ」


 少女は蒼白と化した。

 神様の八つ当たりで、あっさり簡単に人間って死んでしまう物なのだ。

 さっき迄あんなに強気で暴力を振るい、面白おかしそうに助けを求める少女を甚振り続けて、自分の欲求の捌け口にしていたのに……。


「まっ、どの道火山が噴火すれば、気の毒な目に遭う不運な者は現れる」


 ポンポンと背を叩きながら、銀孤は天を見つめながら言った。


「落ち着いたならば、家に送ろう」


「えっ?」


 銀孤は少女をヒョイと抱きかかえると、ポポンと姿を消した。

 ふわりと自転車が宙に浮き、フラフラと泳いだかと思うと、パッと自転車も消えた。

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