第3話

 塾の帰りに何時も通るこの神社の前で、急に少年達が自転車の前に立ちはだかり、そして有無も言わされずに森林に連れ込まれた。

 神社の前は、車が往き来しているし街灯もある。

 神社には電灯があって、決して暗くない。

 ただ、この先の森林には電灯がないから鬱蒼と暗いのだが、今まで此処で被害に遭う女性ものなど一人もいなかった。

 それは、此処の偉大なる尊い神様がお守りくださる……からと、古くからの者や氏子達は信じている。

 そう地元の者が信じるで、自分は五人の男子に凌辱された。

 声を上げるにもあげられず、口に何かを噛ませられた様に覚えている。馬乗りになった男子に、顔が腫れるほど殴られ、抵抗した足や腕を蹴られたり叩かれたりして、最後には抑え込まれた。

 そして……。

 何人目かの男子がのしかかった時に、力尽きて抵抗もできずにその内意識が朦朧とした。

 幾度となく弄られ、幾度となく揺さぶられた躰は、あちこちと痛みしかない。

 もはや恐怖など通り越し、口惜しさと憤りで涙が零れた。


 ……どうして自分が?どうしてこんな目に……


 朦朧としながらも、奴らの会話は何となく覚えている。

 写真を撮られて、これで脅せば言いなりだ……と言う言葉と、言う事をきけよ……と言う言葉と共に、楽しそうな笑い声が耳に残っている。

 口惜しげに缶コーヒーを見つめて涙ぐむ少女を、銀孤はしみじみと見つめた。


「よいか?なぜあの者達が其方に、あの様な非道を致したか?そこの処は解らぬが、其方はどの道同じ目に遭おう?……例えばアヤツ等に、目を付けられておったのなら、此処で大神様に無かった事として頂いたとしても、再び同じ目に遭おう?」


 銀孤はそう言って言葉を切った。


「また……偶々遭遇していたぶられたのであらば、時を戻せば同じ事となる……彼奴らでは無い、同じ様な輩に目を付けられるのだ」


「……………」


 銀孤はそう言うと、少女の缶コーヒーの底を押し上げて、少女に飲む様にと促す。


「哀れであるが、この様な目に、どの道遭うという事だ……」


「……………」


 少女は項垂れる様に、缶コーヒーを見つめる。


「よいか?には、大神様はお出でになられないし、私とておらぬから、結局のところ其方は大きな傷を負い。尚且つ先に申した様に、いろいろと過酷な事となり得る可能性が高い。昨今の悪人ものは、そーゆー事を平気で致す……」


モフモフ銀狐は、知った顔で真剣に言う。


「だが今回此処で、其方が〝これ〟をどうにかやり過ごせれば、事は起きたし彼奴らはこれから苛酷な目に遭うからな、其方にどうこうするどころではなくなる」


「?????」


 少女は怪訝そうに銀孤を見つめ、銀孤は缶コーヒーをグビグビと飲むと


「彼奴らはこれから、大神様の八つ当たりにあうのだ」


 銀孤は、それは綺麗な青い瞳を向けて告げた。


「……大神様の八つ当たり?神様って八つ当たりするんですか?」


「大概のお方々はなさらないが……大神様はなさるのだ……それも八つ当たりで七殺されるのだが、さすがにそれではあの者達が哀れだ」


「哀れ?アイツらが?」


 少女は酷く顔面を歪めて、銀孤を睨め付けて声を荒げた。


「はぁ……。散々甚振られ露わな姿迄晒された其方を思うと、それは気の毒ではあるのだが、彼奴らのはそれ以上である……たぶん彼奴らは、今し方会った我らの事を、恐怖に打ちひしがれて思い出しておる事であろう……。よいか?あの大神様は、それはお力のある大神様で、強固な物でできておいでだから、融通という物がお効きになられない。そして、穏やか気であるが、お怒りになられると、他神様方から比べられぬ程に激しい。とにかく奴らに事の恐さを知らしめる為に、各自大事な者を一人見せしめにしておられるだろう」


「見せしめ?」


「簡単に申せば、死なせておる……死にかけておる……という事だ。よいか?これだけでは済まぬ。此処から始まるのだ、七人……奴ら一人に七人……もしも居なければ、近くの者をも巻き添えにするが、あの方のなされ方だ」


 少女は、想像もつかない様子で銀孤を見ている。


「あの者達の大事な者達を、七人巻き添えに致し殺すのだ。それは友達や隣人まで及ぶ」


「私の為に?」


「悪いがそうではない。ただただ、大神様の虫の居所が悪かったが為だ。ただ、それだけの理由で、奴らは若くとも死ぬのだ」


 銀孤は考えこんだ少女を、慈愛のこもった目を向ける。


「確かに大神様は大地を統べるお方ゆえ、この神聖なる森林にて悪徳非道を行えば、お怒りになるは当然ながら……さすがにここまでのお怒りはあり得ない。七殺と言っても当人を含め七人、一年から三年程で終えられるが……まぁ、火山一つ分のお怒りだからなぁ……35人の人間の命と、どっちがどう?と言うのも可笑しいが……」


「火山一つ?」


「ああ……あのお方が今日の様にお怒りの時は、火山が一つ噴火する」


 銀孤は笑いながら言うが、少女は呆気にとられてしまっている。

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