第13話 折り紙と秘密

「みんな好きなものを作ってくださーい」


「「はーい!」」


 大輝くんが怪我をしてしまったので室内で折り紙をすることにした。

 今まで折り紙で山やチューリップ、犬など簡単に折れるものを作ってきたので今日はそれぞれ好きなものを作ってもらう。


 今まで作ってきたものを作る子や折り紙にクレヨンで何か書いている子、折り紙をビリビリに破いている子。

 みんな近くに座っている子どうしで作ったものを見せ合い、すごいでしょと自慢している。


 そんな中、咲ちゃんとあかりちゃんは真剣な表情で折り紙と向き合っていた。一言も喋らず、ただ黙々と折り紙を折っている。

 見てみるとそれは教えたことのないもので何を作っているか分からなかった。


「咲ちゃんとあかりちゃんは何作ってるのかなー?」


「んー? んーとね、ひみつー」


 集中しているようで二人は顔を上げることはなかったが、咲ちゃんが答えてくれた。


「秘密なのー?」


「そー」


「どうしても?」


「だめー」


 一切私の方を見ることなく会話が終わってしまった。しかしその場で見守っていると、咲ちゃんはうーんと何やら考え始めた。


「ねーねー、あかりたん。どーちたらいーかな?」


「んー。こーちたら?」


 あかりちゃんは少し考えた後、咲ちゃんの折っていたものに手を加えた。すると咲ちゃんはなるほどといった表情で満足しあかりちゃんにお礼を言った。


「あかりたんはできそー?」


「うん!」


 二人はお互いに何を作ろうとしているのか知っているようだ。


「何ができそうなのかな?」


「「ひみつー!」」


 今度は二人揃って秘密だと言われてしまった。これはもう教えてくれないなと諦めた。

 すると咲ちゃんから質問が飛んできた。


「ねーせんせーはきんめだるつくれるー?」


「金メダル?」


「うん」


「どうして金メダルなのかな?」


「ひみつー」


「そっかぁ。先生は金メダル作れるよ!」


「おちえてー!」


 どうやら金メダルは秘密に関係しているらしい。しかしまだ折り紙でメダルを作るのは難しいだろうか。


「難しいけどできるかな?」


「さきがんばるもん!」


 それから四回ほどゆっくり折って見せたが……


「できないよー」


 最初の方はできるのだが、最後の方になるにつれて作業は細かくなり、その作業をこなすのはやはりまだ難しかったようだ。


「難しいね。ちがうのにしよっか?」


「やだ! これにする」


 私がちがうのを提案しようとすると咲ちゃんは頭を左右にブンブン振って断った。

 そして私が折ったメダルを手に取り観察した後、再びメダルを折り始めた。


「さきたんがんばれー!」


 隣では何かを作り終えたあかりちゃんが咲ちゃんに声援を送っていた。


 咲ちゃんはものすごい集中力でメダル作りに取り組んでいる。すっかり咲ちゃんに掛り切りになってしまっていた私は他の子どもたちの作業を見て回った。


 私はもうそろそろお歌とお昼ご飯の時間であることを時計で確認し、みんなに声をかけようとした時に突然咲ちゃんが立ち上がった。


「できたよー!!」


 作ったメダルを掲げて作り終えたという報告をした咲ちゃんにパンダ組のみんなから拍手が送られた。


 私は咲ちゃんの元へ行き、見せてもらうとそれは確かにメダルになっていた。

 再びフンフン鼻息を荒くして、キラキラした目で私を見て何かを待っているようだった。


「咲ちゃんすごいね!」


 そう言って頭を撫でるとエヘヘへと体をくねらせ照れるように喜んだ。


 私は折り紙の秘密のことなど忘れ、この可愛い咲ちゃんの姿にメロメロになるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る