第14話 ぼっちは忘れていた

 咲がメダルの完成を喜んでいた頃。


 愛華と別れた俺は次の授業を受けるため教室へと向かっていた。今は髪を下ろしいつも通りのスタイルに戻している。


 歩きながら先程までの予想外の出来事を思い出し、何故髪を縛ってしまったのかと再び後悔していた。

 しかし愛華さんとの時間は不思議と嫌ではなかった。どこか咲に似た柔らかな笑顔や話している時の気軽な感じは好感が持てた。最初は面倒くさいからと話を合わせていたが、そんな会話も次第に面倒くさいとは思わなくなっていた。


 あのような時間もたまにはいいかなと思った。


 知り合いとなった愛華さんとはこれからも話す機会があるだろう。あの調子だから会ったら向こうから話しかけてくるに違いない。だが、そこで気をつけなければいけないことはなるべく人目を避けるということだ。


 最初は髪でよく見えてなかったが、縛ってから顔がはっきり見えた時は本心から可愛いなと思い、その美貌に驚いた。

 そんな人と俺が話しているところを見られた日には何言われるかわからないからな。


 と、そんなことを考えてるうちに教室に辿り着いた。


 休み時間とあって中からクラスメイトの喋り声が聞こえる。

 しかし俺が教室のドアを開けた途端クラスメイトは話すのをやめ、冷たい視線を俺に向けてきた。突然のことでよくわからなかった俺だが、その理由はすぐに分かった。

 再び話し始めたクラスメイトを他所に、席に向かっていると悪口が聞こえてきたのだ。


「本当に最低だよね。あいつのせいで無理矢理奢らされたんでしょ?」


「男子が言うにはね」


「本当に最悪だったよ。あいつがなんか出しゃばるからよー」


「うわー、ないわー」


 すっかり体育の時間の出来事を忘れていた。やっぱりその出来事は内容が大きく変えられて伝わっているようだ。


 俺は気にすることなく机の横にかかっている鞄から制服を取り出して、それを持ってトイレへ着替えに行く。

 クラスメイトはいつものように体育が終わった後に着替えているので俺だけ体育着なのだ。この教室で一人着替えるのは嫌なのでトイレに行く。


 着替えから戻ってくるとまた俺への悪口が始まる。


 俺の席の周辺から聞こえてきた話では、英才科がサッカーしているところにスポーツ科と情報処理学科が邪魔をしてきて、その時突然俺がふざけんなとキレて揉めることになった。そして文句があるなら俺たちと勝負しろと言い始め、結果としてサッカーの勝負に負けて飲み物を奢れと無理やり金を取られた。その際俺は逃げるように走ってどこかに隠れたため金を取られずに済んだ。


 ということらしい。


 大体よく考えてみれば分かることだろう。クラスで全く喋らないぼっちの俺が何でスポーツ科の奴らに喧嘩を売るようなことをするだろうか。それで俺に一体何のメリットがあるというのだろう。

 そもそもクラスの男子が言っていることは嘘ばかりなのに何故それを一切疑わないのか。

 体育は男子と女子は別れてやっているのであの時の状況を知らないのはしょうがないが、男子の話を全部信じるというのはどうかと思う。


 しかしこういう風に悪口を言われても俺は何も思わないので気にせず席に着いて本を読み始める。


 そして学校が終わるまで俺は嘘だらけの体育の出来事についてクラスメイトにグチグチ言われ続けることとなった。

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