第12話 咲のしっぽ取り
「みなさん、おはようございまーす!」
「「おはよーございまーすっ」」
パンダ組の一日は元気な朝の挨拶から始まる。
「今日はお日様が出てるのでお外に出ますよー!なのでみなさんお着替えしましょう!」
「「はーい!」」
朝に雨が降っていたり、降りそうな時は室内で活動をする。雨が降っていたが止んだという時でも水たまりができてしまい、怪我をすると危ないので室内にしている。
しかし今日はとても天気が良いので外で活動する。
子どもたちはそれぞれの荷物を置いているロッカーで運動着に着替えるが、中には服につっかえて袖から腕が出なかったりする。私は回って着替えの手伝いをする。
「みんなはやくー!」
そう言ってドアの前でうずうずしているのは咲ちゃんだ。ここ最近は一番に着替え終わり、こうしてみんなを待っている。
そして次々に子どもたちが着替え終わり、みんな揃って外に出る。
園庭には滑り台やブランコ、砂場など子どもたちが遊べるものがある。外に出るとみんなそれぞれ遊びたい遊具の方を見ているが、一人だけ私の方をジッと見ている子がいる。
「せんせー、きょーはなにする?しっぽー?」
咲ちゃんは私のところに歩いてきて、ズボンをちょんちょんと引っ張って尋ねてくる。お兄さんといい子にするという約束をしたから、先生の言うことをちゃんと聞こうと余所見をしないでいる。咲ちゃんはとてもいい子なんです。
ちなみにしっぽというのはしっぽ取りという、ズボンの後ろに帽子を挟んでそれを追いかけっこして取る遊びだ。
「そうだよ!」
咲ちゃんに答えてからみんなに注目してもらうために少し大きな声で話す。
「はーい!みんなよく聞いてね!今日はしっぽ取りをします!でもその前に準備体操しますよー。わかったかなー?」
「「はーい!」」
そして数を数えながら屈伸や伸脚、アキレス腱伸ばしなど一通り行った後しっぽ取りの準備をする。
「それじゃあしっぽを付けてくださーい」
何回かやったことがあるのでみんな説明をしなくてもしっぽの準備ができる。
そして楽しみなのが溢れ出して早くやりたいとはしゃいでいる。
「この線から外に出ちゃだめだからね!それじゃあ始め!」
私は一辺10メートルくらいの四角形を地面に書いてから始めの合図をした。
するとみんな一斉にしっぽを取ろうと走り出した。子どもたちは元気にしっぽ取りをして二回目が終わった。
そして三回目、疲れてあんまり走れなくなった子はすぐに取られてしまい四角の外に出て誰かが一番になるのを見て待つ。
そして最後まで残った二人は大輝くんと咲ちゃん。二人は動きを止めて見合っていた。
「だいきくんがんばれー!」
「さきたんがんばれー!」
それぞれに声援が送られる中、突然咲ちゃんが大声を出した。
「さきらいちんなんのー!!!」
二回ともすぐにしっぽを取られてしまっていたが、三回目にして最後まで残ることができた咲ちゃんはフンフンと鼻息が荒く興奮していて上手く喋れてなかった。おそらく咲が一番になるのと言いたかったんだと思う。
一方大輝くんは静かに咲ちゃんのしっぽを睨むように見ていた。
そして最初に動き出したのは大輝くんで、パンダ組の中でも特に足が速いのですぐに咲ちゃんとの距離を縮める。対して咲ちゃんは何故か大輝くんの方にしっぽを向けてお尻をフリフリしていた。それを見ているみんなは大笑いだ。
「とったー!」
大輝くんが手を伸ばしてしっぽを取ったと思ったその時だった。
「えいっ!」
咲ちゃんはしっぽを取られる瞬間に腰をくるっと回して回避したのだ。
そんなことを予想していなかった大輝くんは取り損ねて転んでしまった。そしてうつ伏せになってしまった大輝くんからしっぽを取った咲ちゃんは両手を高く上げ勝利の雄叫びをあげた。
「やったーーーー!」
それを聞いたみんなは咲ちゃんすごいねと駆け寄っていった。しかし咲ちゃんは喜んだ後、あっと気づいてすぐにその場で体を起こして体育座りしている大輝くんのそばに座って声をかけていた。
「だいきくんだいじょーぶ?いたいいたい?」
咲ちゃんは大輝くんの膝小僧にできた擦り傷を見て心配そうにしていた。
「いだっぐだいもん」
痛くないと言いながら涙ぐんでいるのを見て咲ちゃんはつられて泣きそうになっていた。
「せんせー、だいきくんいたいいたいだよ」
私は手当てをするため大輝くんを抱えてみんなと部屋に戻った。
みんなに手を洗いに行くように言って私は大輝くんの手当てをする。
救急箱から消毒液と綿を出して手当てしている時、咲ちゃんはみんなと手を洗いに行かず大輝くんのそばで声をかけ続けていた。
「だいきくん、がんばれ!」
手当てが終わった後咲ちゃんは大輝くんに頭をペコっと下げた。
「だいきくん、ごめんね」
「いいよー。またしっぽやろー?」
「うん!」
謝る咲ちゃんとそれを許す大輝くん、そして二人で手を洗いに行く姿を見て、私はそんな子どもの成長を嬉しく思った。
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