第8話 ぼっちは乗り切る
伝説というわけではないが、高校に入って俺の顔を見た人は先生以外誰もいなかった。
それもそのはずで、高校ではいかなる時も俺は常に周囲を警戒し、誰もいない・見ていないことをきちんと確認してから髪をかきあげ束ねるようにしていたので見られるはずがない。
周りの人からは完全に変人認定されるだろうし、なんでそんなことしてるんだって思われるに違いない。
しかし俺だって好きでしているわけではないし、理由がなきゃわざわざこんなことしない。
こうして入学してから約4ヶ月間やってきたのに、だ。
こんな感じで顔を見られる…… いや、俺から見せてしまうなんて、もう何というか自分が情けない。
しかし自分を責めるよりもまず目の前で固まっている愛華さんをどうにかしないといけないな。
とりあえず俺は今後本当に何かない限り絶対に顔を見せないようにしようと改めて心に決め、話しかける。
「あのー、変な顔してますよ?」
「……え?あ、え?今なんて言った⁈」
「だから、ほら、変な顔してますよ」
俺は愛華さんの顔を指差してもう一度言うと顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。
「ちょっと!変な顔って何よ!これでもみんなから可愛いって言われてるんですけど!」
とりあえず愛華さんが元に戻ってくれたのでよかった。
それと先程までは髪の毛ではっきりと愛華さんの顔が見えていなかったが、今は視界を遮るものがないのでよく見える。
俺は改めてちゃんと見てみると……
「確かに可愛いな」
自然とそんな言葉が口から出ていた。
肩のところで伸びたサラサラで癖のないストレートの黒髪に、吸い込まれるように見入ってしまうほど黒く輝く瞳を細く長いまつ毛がよりはっきりと目立たせている。また肌は白く透き通っており、整った鼻に、綺麗な形の唇。その容姿には可愛いというよりかは美しいという言葉の方が合っていると思う。
だが時折見せる笑顔は咲と似ていて、少し幼さを残しているようにも感じられ、とても可愛らしいのだ。
俺がよく観察していると愛華さんは何やらブツブツ言っていたが、ふと我に返ったようで慌てたように言葉を発してきた。
「じょ、冗談で言ったのよ!それよりそんなに見られると恥ずかしいでしょ!」
「ああ、ごめん。でも本当に可愛いぞ?」
「やめて!もうその話終わり!」
そう言って後ろを向いてしまったので、俺はその話題をやめて水道の近くにある俺の定位置に移動し、そこに座る
すると足音を聞いて俺が移動したのが分かったのだろう、愛華さんもこっちに来て隣に座った。
「………………」
「……俺の顔に何か付いてるか?」
座ってからというものずっと顔だけを見てくるので気になってしょうがない。
「あ、ごめんごめん!何も付いてないよ、大丈夫」
「そんなに見られると恥ずかしいでしょ」
「それ私の!もうやめてよ!」
愛華さんの真似をすると顔を赤くして肩を叩いてきたのでこれは使えるなと今後何かあった時の対策として頭に入れておく。
「ねぇ、なんで普段は今みたいに髪の毛を縛ったりしないで下ろしたままなの?」
「さぁ何でだろうな。あまり人と関わるのが好きじゃないんだ。こうしてたら自分から近づこうと思う奴はいないだろ?愛華さんを除いて」
俺はヘアゴムを取って髪をいつものように下ろして言う。
「私は変な人でいいですよーだ。でも徹くんいつも髪を縛ってたり、もっと短くしたら高校生活もっと楽しくなると思うんだけどなー。すっごくモテるだろうし……」
最後の方はボソボソ言っていて聞き取れなかった。
「俺は今のままで十分。それに人と関わるのが好きじゃないって言っただろ?極力避けたいんだ」
これは嘘ではなく本心だ。俺は今のところ現状に満足しているし、これで何かに放課後の時間を取られれば咲の面倒を見れなくなる。
「本人が言うならそれでいっか!でも私とはこうして関わってるけどいいの?」
「それは俺も予想外だったんだよ。助けてくれたことは感謝してるけど愛華さんの謎の圧力によってこうして知り合いになってしまった」
「何それ⁈私は圧力なんかかけてないよ! かけてないでしょ?ねぇ!」
ほら、今ものすごい圧力かかってるよ。
「そうですね、知り合いになれて嬉しいですよ」
「棒読みすぎて全然嬉しくないよ」
そう言うわりには口角が上がってるように見えるが気のせいだろうか。
俺と愛華さんは残りのサボりの時間をこんな感じで過ごしたが、愛華さんは終始ニコニコと笑顔であった。
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