第7話 ぼっちは素顔を見られる

「ねぇ、そういえばもう次の授業始まるけど急がなくていいの?」


 授業の合間の休み時間は15分、現在授業が始まるまでもう2分を切っていた。


「次は美術だからここで休むつもり」


「確か普通科の美術の先生って怖いって有名だよね?大丈夫……?」


「あ、俺英才科だから」


「え……!」


 なんだそのリアクションは。顎が地面につくほど縦に開けられているかのような、まるで漫画の一コマみたいな驚きようだ。


「だから、俺は英才科だよ。見た目がこんなだから普通科に見えたか?」


「ごめん!その通りです!」


 愛華さん、素直なのはいいことだが素直すぎるのもどうかと思うぞ。


「英才科の美術の授業ってどんな感じなの?」


「授業なんてしてない。みんな教室で好きな勉強しているだけで、先生も美術室にいて教室には一度も来ないからな」


「だからサボっても大丈夫ってわけね!」


「そういうこと」


 いつも体育が終わった後俺は次の授業が終わる時間までこの人気の少ない水道のところでゆっくりしているのだ。

 英才科のみんなも好き勝手しているので俺もそうさせてもらっている。そう考えると英才科って自由でいいよな。自由すぎるけど。


「愛華さんは授業に行かなくていいのか?」


「私も今日は行かなくていいかな」


「ちゃんと勉強しないとだめだろ?」


「徹くんだって……そうだ、英才科だったんだ。でも!サボってることに変わりはないからね!それに私は調理科だからいいの」


「料理には技術だけじゃなくて知識も必要だと思うが?」


「し、知ってるよ!でも次の時間は国語なのよ?一度サボるくらいいいじゃない!私いつもは真面目だから大丈夫!」


 真面目な奴は一度くらいサボってもいいという考えには至らないと思うんだけどな。


「……ならいいんじゃない?」


「何今の間は!信じてないでしょ!私はこう見えて生徒会のメンバーなんだよ」


 愛華さんが生徒会か。この学校の行く先が心配になるな。


「へぇ、そうなのか。それならサボるのはよくないな」


「た、たまには休息も必要なのよ」


「はいはい、分かったから。もうそこに座ってなよ」


「私が先輩だってこと忘れてないよね?」


「これでいいって言ったのは愛華さんだからね」


 むすーとしてある愛華さんを放っておいて俺はそろそろいい加減に汗を流したくなったので、水道の蛇口をひねり水を頭からかぶる。


 あんなに気持ち悪かったベトベト感が一気に落ちていく。


「あぁー最高だ」


「気持ちよさそうだね」


「運動後にこうするのは気持ちいいな」


「いつもこんなに汗かくまで体育の時間運動してるの?」


「いや、今日はたまたまだよ」


「ねぇそんなに髪の毛長くて邪魔じゃないの? せっかく手首にヘアゴム掛かってるんだから使ったら?」


「もう慣れたよ。それにヘアゴム使うのは家にいる時か何かあった時くらいだからな」


 俺は蛇口を先程とは逆にひねり水を止める。そして濡れた髪をタオルで拭き、髪をかきあげて後ろで束ねた後手首にかかっているヘアゴムで髪を縛る。

 最後に顔を拭いてひと段落したところで、愛華さんが静かなことに気がつく。


 愛華さんを見るとびっくりした顔で固まっていた。


「ん?どうした?何か変、あっ」


 聞いている途中で自分で気づいてしまった。

 今さっきヘアゴムする時は、なんて話をしていたのに何故こんなにも自然に髪をまとめて縛ってしまったのか。いつもなら人目がないかどうかちゃんと確認していたのに。それに今は愛華さんがいるとわかっていたのに一体どうしてだろうか。


 しかし今更隠したところで意味はない。


 俺は未だに俺の顔を見て固まっている愛華さんをどうしたらいいか考えるのだった。

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