第6話 ぼっちは出会う

 水道の縁に手をつき下を向いていると後ろから声がかかる。


「あのー、もしかして体調悪いですか?」


 振り向くとそこには全く見たことのない女の子が心配そうに俺を見ていた。


「いや、そういう訳じゃないけど」


「それならどうしたんですか?」


 こんな汗だくで不気味な見た目の俺に話しかけるなんて優しい子だなと素直に思った。


「そんな汗かくなんて相当熱があるんじゃないですか?」


 どんどん近づいてくる女の子を俺は手で制して答える。


「体育で汗かいたんだけど、今日タオル持ってきてなくて」


「あっ、そうだったんですね!早とちりしてしまいました」


 そう言ってニコッと笑うその姿は咲の笑った表情と少し似ていて俺はびっくりした。しかし女の子は俺がびっくりしたことに気づいていなかったようだ。


 女の子は笑顔のまま今の俺にとって大変有り難い情報を教えてくれた。


「タオルなら保健室で借りることができますよ!」


 これはいいことを聞いた。そんなことを知っているなんてすごいなと感心した。


「そうか。ありがとう」


 俺は上履きに履き替えようと今来た道を戻るため歩き出すが、そんな俺を今度は女の子が手で制してきた。


「私が借りてきますよ!運動靴のラインの色が赤ってことは一年生だよね?靴箱遠いから時間かかるでしょ?私の靴箱すぐそこだから」


「いや、だいじょ……うぶ」


 俺の言葉を聞く前に女の子は走って行ってしまった。


 そんな後ろ姿を見ながら俺はふとあることに気がつく。


 保健室でタオルが借りれることを知っていたり、下駄箱が一年とは違うところにあったり。


 …………もしかして先輩なんじゃないか? 


 だとしたら今の短い時間の中での俺の態度って……


「すごく失礼だよな」


 女の子は制服だったし、靴箱が近いとはいえ駆けて行ったのは中央の校舎だった。まだ先輩とは決まった訳じゃない。

 それでも初対面で良くしてくれた人に対して俺は失礼な態度を取ってしまっていた。


 そんな反省をしていると女の子は真っ白なタオルを持って戻ってきた。


「おまたせ! はいどうぞ」


 俺は差し出されたタオルを受け取ろうと手を伸ばすが、そのタオルは受け取る前に引っ込められてしまった。


「返すのはいつでも大丈夫だけど、借りたままにしておくとものすごく怒られるから必ず保健室に返すこと、いい?じゃないと怒られるのは私なんだからね!」


「分かりました」


 俺は先程までの態度を改めて返事をすると、よしっと言ってタオルを渡してくれた。


「わざわざタオルを取ってきてくださりありがとうございました。それと先程まで先輩に対してタメ口で失礼な態度を取ってしまいすみませんでした」


 この女の子が先輩かどうか分からないが、もう先輩だと仮定してお礼と謝罪をした。

 すると女の子は俺の突然の態度の変化に驚いたようで、慌てて突っ込み出した。


「ちょ、ちょっといきなりどうしたの!やめてよー!さっきのままでいいから」


「いえ、こんなに良くしてもらったのに失礼だったなと思いまして」


「さっきまであんなにフランクだったのに、急に敬語に変わったらすごい他人みたいじゃん!」


「お互い名前を知らないので今は他人だと思うんですが」


「もー、そんなこと言わないでよ!私は二年の白崎愛華しらさきあいか。あなたの名前は?」


「俺は一年の東野徹です」


「はい!これでもう他人じゃないよね?ね?」


 愛華さんがものすごい圧力をかけてくるので話を合わせる。


「まぁ知らないことだらけですが、他人ではないと思います」


「その言い方がまるで他人みたいじゃない、ばか!」


「分かりましたよ、愛華さんと俺は知り合いです。はい、もう間違いありません」


「何かすごいやっつけ感たっぷりじゃない!はぁ、もういっか。それよりもう知り合いなんだからさっきまでの徹くんに戻ってくれない?敬語は嫌です」


「愛華さんがそう言うなら。俺もその方が楽なので」


「うん!」


 俺は何故か嬉しそうにしている愛華を見て、やはり咲に似ているなぁと思った。

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