第5話 ぼっちは何故か責められる

「あいつ半端ないって」


 試合が終わってからスポーツ科と情報処理学科の奴らがこのどこかで聞いたことのあるセリフを何度も口にしていた。


「最初お前見たときは気持ち悪りぃ奴だと思ったけど、やるじゃねーか!」


「お前サッカー部でもかなり上だぞ。勉強なんてしなくても死なねーからサッカー部に来いよ!」


 こんな感じで俺はスポーツ科の奴らに囲まれ、特にサッカー部に所属している奴から勧誘された。

 しかし俺に部活をやるような時間はないので、後でめんどくさいことにならないように丁重にお断りさせてもらった。


 まるで勝ったような雰囲気だが試合は負けた。


 まぁ当然の結果だ。何せ俺が参加した時には3対0、残り時間は3分ほど。それに相手は運動が得意な奴らばかりで、こちらはというと体力の尽きたクラスメイトが次々にコートの外へ出て行くような状態だ。


 そりゃ勝ち目はないって。


 クラスメイトはコートの外から勝て勝て叫んでいたが俺は勝ち負けを気にすることなく、ただ運動が思いっきりできるからという理由で点をできる限り取りまくった。当初の目立ちたくないという思いをすっかり忘れて。

 ディフェンスするにもコートに残ったのはキーパーと俺だけ、守れるはずもなく簡単に点が入る。しかし開始が俺からなら必ず点を決めた。結局本気でやって5点入れたがその分5点きっちり返された。


 そして最終スコアは5対8だった。


 試合後はクラスメイトは彼らと何やら約束していたようで飲み物を奢らされていた。


 俺は何故かサッカーが上手いからと言われて奢らずに済んだ。そもそも俺はそんな約束していないので奢れと言われても奢らないつもりでいたが。


 体育の時間の終わりを知らせるチャイムが鳴りそれぞれ校舎へと戻っていくが、いろんな意味で絞られたクラスメイトはこちらに戻ってくるなり罵詈雑言を浴びせてきた。


「何でお前は金出してないんだよ!お前が点取らないから負けたんだろ!」


「そうだ!大体あいつらが来る前にお前があんなに活躍してなかったら俺たちも盛り上がることなんてなかったんだ」


「お陰でこんなに傷ができたじゃないか! どうしてくれるんだ!」


「全部お前のせいだぞ!ふざけんなよ」


 こいつら本当に英才科か?というよりもそもそも高校生なのか?と思ってしまうほど幼稚な難癖のつけかただ。


 大体俺に助けを求めてきたのはそっちだろ。敬語で俺に助けを求めた奴もあちら側に回って何もできないのにでしゃばるなと訳の分からないことを言っている。

 こんな奴らよりスポーツ科や情報処理学科の奴らの方がよっぽどいい奴らだよ。いや本当に。


 俺はクズどもを無視して水道のある校舎の外れへと向かう。


 俺にとっては唯一運動できる時間だったが、もう二度と思いっきり運動しないと心に決めた。まぁクラスの男どもに関わるとろくなことがないと分かっただけでもよかったか。

 普段からひどかったが、こんなにも救えない奴らだとは思わなかった。


 どうせクラスに戻ったらデタラメな嘘が広まっているんだろうなと面倒な未来を見据えているとようやく水道が見えてきた。


 この高校はご存知の通り校舎が三つあり加えて大きなグラウンドもあるため、想像できるように敷地がとても広い。

 普通水道はグラウンドの近くにあるはずなんだが、この高校は結構離れたところにあるのだ。


 それで水道のあるところまでやってきたはいいが俺は大事なことに気づいてしまった。


「タオル持ってきてないんだった……」


 いつも以上に動いてしまったため、普段はあまり出ない汗が今日は服が濡れるほど出てしまっている。

 こんなことになるとは予想していなかったので用意してこなかった。


 服は汗で濡れてしまっているため髪や顔を拭くものがない。


「最悪だな」


 今日は何かついてないなと少し落ち込むが、この後俺の高校生活を大きく変えるきっかけの一つとなる出会いが待っているのだった。

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