第2話 ぼっちの始まり

 俺の通っているのは仁徳高校。


 英才科、普通科、調理科、スポーツ科、情報処理学科、音楽科、生活学科の七つも学科ある、地元では一番大きな高校である。

 学科によって目指すものは変わってくるため、学力にも差が出るのは当然。ここに通う生徒は素行の悪い不良からあらゆることができてしまう天才まで幅広く集まっている。


 学校側は極力揉め事を減らすために校舎を三つに分け、不良と真面目な生徒の関わりがなるべくないようにしている。


 門から見て左は英才科・普通科の校舎、中央は調理科・音楽科・生活学科の校舎、右はスポーツ科・情報処理学科の校舎となっている。

 不良が集まるのは右側、それ以外が集まるのは中央と左側である。その中でも天才と呼ばれる人が集まるのは英才科である。


 そして俺が在籍しているのはその英才科だ。しかし俺は天才と呼ばれるような頭脳は持っていない。俺の成績は至って普通で、それこそ普通科の生徒と比べても少しできる程度だろう。

 それなのに英才科に在籍している。クラスメイトは授業で指されても答えられない俺をバカだと見下し、ここにいることに納得していないようで何かと文句を言っている。

 不良のような生徒はいないのでいじめまで発展はしない。みんな陰でコソコソしているだけである。


 そんなわけで俺は入学してからぼっちとなっている。




「それじゃあホームルームを終わりにするが、何か話のある奴はいるかー?」


 先生は教室を見渡し誰も手を挙げていないのを確認してから教室を出て行く。


 先生がいなくなった教室は一気にざわつき始めた。それぞれ席を立ち、仲のいい友達のところへ行き話をする。


 俺はいつも通り読書を始める。本のタイトルは『初めてのボクシング』である。流石にクラスメイトに見られるのは恥ずかしいのでカバーをして読んでいる。

 ボクシングなんて読んで覚えるものではなく実際に体で覚えるものだと思うだろうが、俺には習いに行く時間がない。

 だからこうして本を読んで基礎の型を見ては家で一人実践している。


 静かに一人読書をしてるといつものようにヒソヒソ話が聞こえてくる。


「あいつ前髪ありすぎて本読めてないだろ」


「大体髪長すぎて何か不気味じゃね?」


「何考えてるかわかんねーよな。それに誰かと話してるところみたことないし」


「話す奴いないから読んでるフリしてるんじゃない?」


「てかあいつ体でかいよな。それであの見た目は気持ち悪すぎだろ」


 そう言ってクスクス笑うクラスメイトの小言を俺は気にすることなく読書を続ける。


 俺がぼっちになった理由は他にもある。


 周りが言うように俺はめちゃくちゃ髪が伸びており、加えて女子のように前髪を整えたりすることはしていないため、まるで貞子のように目や鼻が隠れてしまっている。

 正直鬱陶しいとは思うが、人と関わるのが好きではない俺にとっては人を寄せ付けないという面でこの髪は大変有り難い武器となっているのだ。


 あと身長が178センチと高校一年にしてはデカい方である。


 俺と同じような見た目の奴がいたとしたら、俺も不気味だなと思うだろう。

 それこそ俺の作戦である。本人ですら不気味に思うのだから近寄る人など当然いない。


 これでぼっちの完成だ。



 一限が始まる5分前のチャイムが鳴り、みんな自分の席へと戻っていく。

 確か一限は国語だったかな?


 俺は教科書に先程から読んでいる本を重ねて、再び読書を始める。国語の先生は生徒を指して答えさせることはしないので俺はいつも好きなことをして時間を潰している。最近はボクシングを学んでいる。


 そうして一限が終わるまで俺の頭の中はボクシングでいっぱいであった。

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