第3話 ぼっちの長所のひとつ
二限は体育だ。黒板には大きな字で『サッカー』と書かれている。
入学してから4ヶ月ほど経っている今、この体育の時間だけクラスの奴らと関わりがある。
「おい! バケモノ点取ってこい!」
クラスメイトからの雑なパスを華麗にトラップし、ドリブルする。そのまま三人抜いてシュートすると、ボールはゴールの隅へと吸い込まれるように飛んでいき一点をもぎ取った。
バケモノと呼ばれているのは見た目はもちろんなのだが、運動神経が抜群に良く、その意外性からである。
俺としては目立ちたくないんだが、学校の体育というのは普段咲の面倒を見ている俺にとっては唯一と言っていい、運動ができる時間なのだ。
この貴重な時間を有効に活用するのに、このクラスメイトにバケモノとして利用されるのは都合がいい。
「やっぱすげーなあいつ。普段はぼっちで読書ばっかしてるくせに」
「何かスポーツでもやれば人生変わるのにな」
おい、ぼっちと読書は関係ないだろ。ただ一人でいる方が楽だからそうしているだけだし、読書するのが好きなだけだ。
「まぁそんなことどーでもいいけど!お前ら負けたんだからジュース奢れよー」
「はぁー⁈別にお前ら何もしてないだろ!あいつが一人で勝ったようなもんだ!」
「今はチームだからあいつの勝ちは俺らの勝ちなんだよ!」
こいつらはチーム戦の時いつも飲み物を賭けて勝負している。基本的に俺のいるチームは勝つので、俺がチームにいるとみんな喜ぶ。
すると盛り上がっている雰囲気を壊すように突っかかってくる奴らがいた。
「なんだなんだ〜?今日は英才科の奴ら元気じゃんか」
以前説明したが、この高校には学科が7つと学科数が多いため一学年にクラスが23もある。しかしこの学校には体育で使えるグラウンドは一つしかないため、他クラスと体育の時間が被ってしまう。
そして今日は不良の集まるスポーツ科と情報処理学科の二クラスとの合同なのだ。二ヶ月に一度くらい訪れるこの組み合わせは英才科のみんなにとって最悪なものだった。
俺は別に何とも思わないがクラスメイトはビビって萎縮してしまう。この前なんかはコートを順番で使うはずがどうぞどうぞと譲ってただ眺めていただけだった。
今日は英才科以外の学科が遅れてきたためサッカーができていた。
「どうせ運動神経よくねーんだから椅子に座って勉強だけしとけよな」
「俺らがいないからって何か調子乗ってねーか?」
言い寄ってくるスポーツ科と情報処理学科の連中にクラスメイトは何も言い返さず、ただ黙って下を向いている。
「おいおい、何か俺らが弱いものいじめしてるみたいじゃん」
「んで、お前らまだコート使うの?」
「も、もう使いませんっ!!」
何とか振り絞って一言発した後、クラスメイトは走ってコートの隅っこに集まって大人しくなっていた。
俺は一人、みんなの後ろでリフティングをして体を動かす。
「何であいつらと同じ時間になるんだよ……」
「先生に相談してみようぜ。あんなバカどもと一緒に授業なんてできるわけないじゃん……」
スポーツ科と情報処理学科の奴らに聞こえないように小声で話し合っている。
俺に好き勝手言ってる時みたいにこいつらにも言えばいいのになと思うのは俺だけだろうか。
ひたすらボールを蹴っていると、突然コートの方から怒鳴り声が聞こえてきた。
「お前らさっきからこっち見て何話してんだよ!」
これはきっと揉めるなと思いながら俺は他人事のように変わらずボールを蹴り続けた。
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