幼い妹をもつぼっち、実は世界一。

洞山楓

第1話 ぼっちの朝

「おはよー! あさだよー!」


  俺、東野 徹ひがしの とおるの一日は可愛い目覚ましから始まる。


「おはよう咲。今日も元気いっぱいだな」


  東野 咲ひがしの さき、俺の妹だ。


「うん! おにーたんはげんきー?」


 咲は首を傾けてニコニコしながら尋ねてくる。この可愛い姿に毎日元気をもらっている。


「ああ、元気だよ。それじゃあ朝ご飯にしよっか」


「はーい!」


 片手を真っ直ぐピーンと伸ばして返事をする。とてもいい子だ。


 俺はキッチンに向かい、パンを二枚トースターにセットする。そしてパンを焼いている間にコンロにフライパンを置き、火をつける。フライパンが温まったところで油をひき卵を二つ落とし、目玉焼きを作る。その後ウインナーを四本焼く。

 お皿に目玉焼きとウインナーを二本を乗せ、そこにちぎったレタスとプチトマトを添える。

 チーンというパンの焼き上がりを知らせるトースターの音が聞こえたところで二枚あるうちの一枚はパンの耳を切り落とし、バターを塗った後イチゴジャムを塗ってお皿に乗せる。


「咲待たせたな。朝ごはんができたぞ」


 ニコニコしながら椅子に座って待つ咲の目の前に二つのお皿を置き食べ始める。


「「いただきます!」」


「おにーたん、きょうもおいちいね!」


 咲は口をパンパンにしてもぐもぐしながら言う。


 こんな普通のご飯を毎日美味しいと言ってくれるのはすごく嬉しい。


「そうだな。美味しいね」


 自然と俺も笑顔になる。


 俺の家族は目の前にいる咲だけだ。俺は今高校一年、咲は保育園二年目。


 両親は俺が中学生二年の時に交通事故で死んでしまい、一歳半の咲と俺だけになってしまった。それから二年何とか頑張って生活してきた。お金は両親の保険金やら遺産があるので問題はなかった。

 しかし咲には寂しい思いをさせてしまっているので出来る限りのことはしてあげたいと思っている。


「咲そろそろお着替えの時間だけど、食べ終わったか?」


「あともーちょっとだよー!」


 咲はお皿に残ったプチトマトを口に入れ、一生懸命もぐもぐしている。


「たべたよー!」


「じゃあごちそうさまでしたしようか」


「「ごちそうさまでした!」」


 俺は食器をキッチンのシンクに置き、急いで洗う。


「咲ー! 歯磨きと顔洗ったらお着替えだからなー」


「はーい!」


 咲は元気な返事をして洗面所へと駆けていった。

 最近咲は一人で歯磨き、顔洗い、着替えをできるようになってきたので、任せてしまっている。


 食器も洗い終わり、俺も洗面所へ向かうと咲がちょうど顔を洗い終わったところだった。


「おにーたんもはやくおきがえするんだよー!」


「わかったよ」


 咲は俺よりも先に顔洗いまで終えたからか満足そうな顔をして着替えに行った。

 俺は歯磨きと顔洗いをさっさと済ませ制服に着替えた。咲の方を見ると、どうやら上着のボタンを閉めるのに苦戦しているようだった。


「んー! んー! もーぜんぜんできないよー」


 時間もないので閉めてあげる。


「ほらできたぞ」


「さきもほんとならできるもん!」


 ほっぺを膨らませてむーっとしてる咲に保育園の帽子を被せて玄関を出る。

 咲の通う保育園と俺の通う高校は幸い家から近いのでいつも歩きで行っている。

 咲と手を繋いで保育園へと向かう。


「さきのおにーたんはせっかいいちー! さきのおにーたんはせっかいいちー!」


 毎朝保育園に向かう時に咲はこのように変な歌を歌っている。


「つよくてーやさしくてーかっこいいのー! せっかいいちーのおーにいーたん!」


 何度お願いしてもやめようとはしないので今では好きに歌わせている。

 すれ違う人がいつも微笑ましそうに見ているが、俺はものすごく恥ずかしい。


 それからちょっとしてその歌が歌い終わる頃、保育園に到着した。


「じゃあ咲、今日もいい子にしてるんだぞ! 先生の言うことはちゃんと聞いてな」


「はーい! さきはいつもいいこだもーん!」


 そう言って駆け足で室内へと入って行く。


「おはようございます東野さん! 今日の帰りはいつも通りですか?」


 挨拶してくれたのはサラサラした長い髪を後ろに束ねていて、ぱっちり二重の、モデルさんと言われたら何の疑問もなく納得するほど美人の高山詩織たかやましおり先生。年は二十代前半だろうか、周りのパパさんからも大人気だ。


「おはようございます先生。今日は特に何もないのでいつも通りです」


「わかりました! それでは咲ちゃんお預かりしますね!」


「よろしくお願いします」


 二言交わして保育園を後にし、俺は少し駆け足で学校へと向かう。遅刻だけは避けたいのだ。

 俺は何とか間に合い、駆け込んだのは校門が閉まる寸前だった。これはいつものことなので周りの生徒のように安堵の表情を浮かべることなく下駄箱で靴から上履きに履き替えて教室へ向かう。


 教室のドアを開けるとクラスメイトはみんな席についてホームルームが始まるのを待っていた。毎度遅刻すれすれの俺からすればこの光景を見ても焦ることはない。


 ゆっくりと窓際の一番後ろの席に歩いていき荷物を机の横にかけて、席に着く。


 するとタイミングよく先生が教室に入ってきた。


「そんじゃあホームルーム始めるぞー」


 今日もホームルームを合図に俺のぼっちの時間が始まるのであった。

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