求めよ、さらば与えられん


 鐘の音が響く、雲から染料が溢れた様に空が赤く滲む。

 眼下の子等が夜に震えぬ様に、贈り物を残す様にと太陽は最後に最大に肥大して地平線へ消えようとしている。

 オズ王国、王都カナン。

 魔法絶対の王国の首都には街を分ける幾筋の壁が聳え王宮街、魔道街、貴族街、商人街、町人街、そして貧民街、計6区分に分けられている。

 法により壁は王都一の高さを誇り、許可無い者達が街々へ往来する事は絶対禁止である事を身と権威を以って示す。

 雲の染料は幾分多く空から溢れ壁へと垂れてゆく。

 まるで無法に街を越えようとした者達の血の様に、天もまた王国に与しているとでも言う様に。


 ーー 求めよ、さらば与えられん


 いつ誰が何の為に書いたのか知らない。

 スラム街の壁の一角に落書きされた皮肉なその文字は、悠久の時を壁と歩んだのだろうか赤い塗料は色褪せ、壁に溶け込む様にくすむ。


 「どこの国の文字なんだろうな。これ 」

 「さぁね 」


壁の前で二人の少年が暇を持て余しがてらの疑問を呈す。

 こんな他愛も無い会話は壁の前で幾度となく繰り返されてきているのだろう、二人は二人が二人の為に作った二人だけの盗賊ギルド『キツネの子』のカイとアレフ。

 ギルド名は可愛らしいが、この貧民街に拠点を置き王国より特級犯罪ギルドに指定された極悪ギルドだ。

 

 「面倒くさがるなよ、どうせ知ってんだろ賢者様 」

 

 燃える様に赤い髪、ドラゴンの様に爛々と赤く輝く目、カイは戯れる様にもう一人の少年に言った。

 ——賢者 、それはアレフのギフトの名前。

この世の理を全て知る事が出来る神からの最高の贈り物。

 

 「じゃあ、今日の仕事上手くいったら教えてやるよ 」

 「今日もだろ、兄弟。オレ達はいつも上手くやれるのさ 」

 

 アレフはその言葉についニヤけてしまう。

 カイのいつも燃えている様な赤い目を見た。

 そして壁の文字を一瞥し、知らずもかな壁の文字が示す事を体現する愚直な親友へと戻した。


 「そうだな兄弟。オレ達は今日も上手くやれる。 」

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