第7話
翌日――つまり、土曜日。
休日ということもあって、俺は昼辺りまでぐっすりと眠る予定だった。だがしかし、朝八時ごろにスマートフォンがぶるぶる震えて、そのバイブレーションの音であっさり目が覚めてしまった。
「んん……朝からなんだよ……?」
俺は寝ぼけ眼を擦りながら、スマートフォンを操作する。メッセージが届いていた。理子からだった。意識が瞬時にして覚醒する。
『今日、お暇ですか?』
昨日、帰りの電車を待っている間に、理子と会うことはもうないのではないか、なんて考えていたけれど、それが間違いだと早くも立証されてしまった。
『暇だよ』
もう少しいい感じの返信をしたかったが、残念ながら何も思いつかなかった。無理してかっこつけたところで、すぐにボロが出るに決まっている。それなら気取らず、自然体でいるべきだろう。
待機していたのか、すぐに既読がついた。
『亜美さんに朝倉さんのことを話したら「会いたい」と言ってました。よかったら、家にいらっしゃいませんか?』
「うん?」
昨日も同じことを言われ、そのときは断った。いきなり自宅にお邪魔するのは失礼かな、と思ったからだ。しかし、おそらく今回は、理子ではなく亜美さんが『うちにおいでよ』と誘っているのだ。二回連続で誘いを断るのもなんだしな……。
『君の自宅は』
……君?
なんかおかしいな、と思って文字を消す。でも、『あなた』もおかしいし、名字の『相馬』はできれば使いたくないし……。となると、名前の『理子』しかなくなるわけなのだが……。
『理子さんの自宅ってどこ?』
高校生に『さん』付け、か……。いや、だがしかし、名前呼び捨ては馴れ馴れしいもんな……。まあ、いいや。送信。
まるで思春期だな、と苦笑する。
すぐに自宅の住所と地図が送られてきた。まだ知り合って間もないので、理子がどういう人間か詳しくは知らないが、真面目なしっかり者のように思える。きっと、通っている高校も偏差値が高いところなんだろうな。
理子はクラシカルなセーラー服を着ていた。公立高校かと思ったが、セーラー服の私立高校もたくさんあるか。
『何時くらいに行けばいいかな?』
『何時でも構わないですよ』
『一〇時くらいに行くね』
『わかりました』
お互いに堅苦しい感じだな、と俺は苦笑した。
高校生と会話する機会なんてないので、距離感がつかめない。一七も年下なのに敬語で接するのはどうかと思うし、かといってフランクすぎるのもね。
スマートフォンをベッド上に置くと、俺はシャワーを浴びた。適当に服を着ると、トーストをコーヒーで流し込む。天気予報をチェックして、降水確率が〇パーセントであることを確認する。歯を磨きながら、鏡にうつった自分の姿をぼんやり見つめる。
別に、これからデートに出かけるわけじゃない。デートをするときは、無駄に服装を悩んだりしたものだ。今は着ていく服を悩んだりはしない。デートじゃないからか、服装に頓着しなくなったのか……。
一応、『一〇時くらいに行く』と返信したのだが、一〇時過ぎに着くのは印象がよくない。早めに着くように、そろそろ家を出よう。早め早めを心がける――大人になってから身につけた習慣だ。
準備を済ませると、家を出た。
何かお菓子でも買っていこうか、とも思ったがよさげな物がなく諦めた。そこまで、気をつかわなくてもいいか。
それにしても、妙なことになったな、と改めて思った。
元カノの娘と知り合い、彼女の自宅に招かれる。おかしな夢を見ているような気分だ。夢なら適当なところで覚めるのだが、現実だから覚めようがない。はたして、この現実はどこに向かっているのだろうか?
俺は電車の中で思索にふけりながら、窓の外の移ろう景色を見るともなく眺めていた。
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