一緒に幸せになりましょう

「レオナルドの剣は、いつ見てもすごいです……」


 思わず感嘆の声が漏れます。

 凄まじい手際で紫色の花のモンスターを倒し、たしかな剣の腕を見せたはずのレオナルドは、

 

「ミリアお嬢様を危険な目に合わせるなんて。

 僕は護衛失格ですね……」


 なぜかズーンと落ち込み、私の顔を見るなりそう謝るのでした。



「いいえ、全部私が悪いんです。

 珍しい花を見たからといって、小さな子どもみたいに近寄ってしまって……」

「そのことも最初に注意しておくべきでした。

 結界内と常識が違うこと――ミリアお嬢様は何も悪くありません」


 そう言って自分自身を責め続けるレオナルド。

 気まずそうに目線を逸らされました。



(何も謝られることなんてないのに……)


「しかも肝心なときに、毒を貰って動けなくなって。

 よりにもよって護衛対象に助けられるなんて。

 護衛としてあるまじき失態です」

「私がこうして生きているのは、レオナルドのおかげですよ?」


 私は回り込みかがみこみ、レオナルドの藍色の瞳を覗き込みます。



「ミリアお嬢様の援護がなかったら、僕たちは殺されていました。

 そんな役立たずの護衛なんて、いっそ消えてしまった方が――」




「レオナルド!」


 感情に駆られるままに。

 レオナルドの言葉を止めようと必死になって――


 気が付いたら彼の言葉を強い口調で遮っていました。



(レオナルドは、私だけの英雄です)



 どうかそんな悲しいことを言わないで。



 感情なんてとっく捨てたつもりでいました。

 それでもこの胸に湧き上がる悲しみと怒りは、どうにも抑え込むことはできず。




「……なんでミリアお嬢様が、そんな顔をするんですか。

 僕なんかのために」


 こちらを恐る恐る見つめてくるレオナルド。

 その様子は怒られるのを待つ子犬のようで。




「……レオナルドには、幸せになって欲しいんです。

 どうかそんな自分を卑下するようなことを言わないで下さい」


「僕はミリアお嬢様に仕えるだけで幸せです。

 そんなことよりも、ミリアお嬢様に幸せになって欲しいです」


 至近距離で見つめ合ったまま。

 互いに目線を外すことはなく。 




「私の幸せはレオナルドが幸せになることだから」

「なら僕の幸せはミリアお嬢様の幸せです」



 幸せ。


 お互いに、何度も口にしてきた願い。

 私たちは相手の願いからは目を背けていたのも事実で。




(なんて難しい願いなんだう)


 レオナルドが幸せになるために、私の全身全霊を捧げよう。

 そう思っていたのに。


 そんな生き方は望まれていない、許されないと知り――



(幸せ、って何でしょう?)


 突き当たるのは、そんな根源的な疑問でした。


 楽しい、なんて感情はもう捨てたつもりでした。

 期待するだけ無駄なら、はじめから望みなんて持たない方が良い。

 これまでの国でのから生活から学んできたこと。


(……私はこの先、どうしたいんだろう?)



 大切な人が笑える世界であって欲しい。

 国を追われた今だからこそ強く想います。


 奴隷上がりの身分。

 これまで私のために尽くしてくれた人が。

 頑張ってきた人が報われる世界であって欲しい。


 そのためにも私は――




「――幸せになる」


 宣言します。



「僕も、幸せになるよ」


 ほぼ同時にレオナルドもそう宣言しました。


 私たちはきっと似た者同士。

 どうしようもない国で、互いを支え合って過ごし。

 追放されてなお互いの幸せを願う。




(私自身の幸せ、って何だろう?)


 貴族を見返すこと?

 国に復讐すること?

 世界一の富を手にすること?

 

 どれもピンと来ません。


「ねえ、レオナルド?」

「なんですか? ミリアお嬢様」



「幸せって、何でしょうね?」

「……何なんでしょうね、幸せって」



 ただ漠然と「幸せになって欲しい」と言っていました。

 お互いにとんと自分の幸せには無頓着。



「先は長そうですね……」


 思わず半眼になってしまいます。

 そんな私にレオナルドは、優しく微笑みかけると




「一緒に幸せになりましょう」


 そう優しく告げるのでした。

 その微笑みを見て――



 私も思わず釣られて笑みをこぼすのでした。



「ミリアお嬢様。

 ようやく、笑ってくださいましたね」


 心底嬉しそうなレオナルドの声。

 緩み切ったその表情を見て、私はふと思うのでした。



(大切な人と、こうして当たり前のように話ができて。

 お互いに幸せを願うような、大切な人。

 私が笑えただけで、こんなに親身に喜んでくれる人。

 これからも、こんな毎日が続いていくのなら――)

 


 私はもう、幸せなんじゃないかな? なんて。




===


【 ※ 読者様へのお願い 】


「面白かった」と、少しでも思っていただけましたら、ぜひとも「星で称える」からお星さまを入れて応援いただけると嬉しいです~!


それでは、お読みいただき、ありがとうございました!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人形聖女は笑わない~感情を失うまで虐げられた聖女が、ささやかな幸せを見つけるまで~ アトハ @atowaito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ