結界の外がどんな場所でも、ここよりマシです

(実力で逆境を跳ね返したレオナルドと比べて私は――)


 仕えてくれた彼に、何も恩返しをできないまま。

 役立たずの欠陥品として、私は国外追放されようとしています。



 私にできる、せめてもの恩返し。

 それは静かに国外追放されて、彼の立場を不利にしないこと。

 そう思っていたのに――


「公衆の面前でミリアお嬢様が、ここまでひどい目に遭わされてるんです。

 黙って見ているなんて、出来るはずがないでしょう!」



 レオナルドは、必死にそう言い募ります。



(どうして?)



 守ってもらうだけの価値は、私にはありません。

 これ以上は自分の立場を悪くするだけ。

 レオナルドも分かっている筈なのに。



「私がフェルノー王子に言われたことは、すべて自業自得です。

 私が罰せられるのは当然のことです」



(どうにかして説得しないと)


 レオナルドには、決して返せない恩があります。

 スラム街に住んでいたところを、私のわがままで城に連れてきてしまったこと。

 お城での生活は、さぞ窮屈だったことでしょう。

 それなのに文句1つ言わずに、こうして私に付き従ってくれています。



「こんなときまで人の心配を。

 少しはご自身を大切になさってくださいよ」


 こうして見せてくれる優しさに、私がどれだけ救われていたことか。

 思わずこの優しさに甘えてしまいそうになります。

 これまで散々迷惑をかけてきて、許されるはずがないのに。


 どうすれば、この優しい従者を説得できるでしょう。

 泣きそうになりながら、考えていると――



「元・奴隷の分際で。

 あくまで、私の判断に逆らうというのだな?」


 フェルノー王子が、怒りに頬をヒクヒクさせながら言いました。


「聖女様を追放するのは国益に反しますから。

 王子の判断が誤っている時は、お諫めするのも臣下の勤めですので」


 脅すようなフェルノー王子の言葉を受けても、レオナルドは飄々と受け流します。

 それどころか慇懃無礼に礼をするのを見て、


「貴様も追放されたいか!」


 激高した王子は、ついに感情のままにそう叫びました。


(私のせいだ……)


 フェルノー王子の言葉を理解した私は、思わず青ざめます。


 私のたった1人の味方。

 せめてこの国で幸せになって欲しかったのに。


(私には、そんなささやかな願いすら許されないの?)


 そんな私の後悔をよそに。




「国外追放ですね、構いませんよ」


 レオナルドはあっけらかんと、そう言い放ちました。


 王子の機嫌を損ね、国外追放を言い渡されたとは思えない清々しい笑顔。

 あまりに簡単に受け入れたので、フェルノー王子は驚きのあまりフリーズしています。



「ではフェルノー王子、もう用は済みましたね」

「ま、待て。国外追放だぞ?」


 フェルノー王子は、何かを言いかけましたが



「僕とミリアお嬢様は、このまま国を出ていきます。

 それでよろしいんですね?」


 空気を豹変させたレオナルドは、有無を言わさず言葉をかぶせます。

 気圧されたフェルノー王子は「あ、ああ」とだけ頷きました。



「レ、レオナルド。国を出るって、本気なんですか?」

「全てお任せ下さい」


 胸に手を当てて、レオナルドが一礼します。


(お任せください、て言われても……)


 結界の外は、魔物がうろつく危険な場所と言われています。

 なぜこれほどまでに、自信満々なのでしょうか?




「それに――結界の外がどんな場所でも。

 ここよりマシ。そうは思いませんか?」


 レオナルドの問いかけ。

 思い出したのは、ここに集められた貴族たちの視線。

 国に連れて来られてからの6年間が走馬灯のように蘇り――



「そうですね」


 思わず頷いてしまったのが、決定打となりました。




「言うに事を欠いて、追放された方がマシだと!?

 そこまで言うのなら、望み通り貴様らは国外に追放してくれよう!」


 感情のままに、フェルノー王子はそう宣言。

 私とレオナルドは、揃って国外追放されることが決まったのでした。



「聖女の――ミリアお嬢様の守護を失って。

 被害が出てから、うんと後悔すれば良いんだ」


 控えていた兵に捕らわれながら。

 レオナルドは、吐き捨てるようにそう言いました。



「この国には、聖女・レイニーがいる。

 負け惜しみだな。――連れていけ」


 その言葉を聞いても、フェルノー王子は鼻で笑うだけでした。

 こうして私とレオナルドは、王国を追放されることになり。



 ――王国は滅びの道を歩み始めるのでした

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