こんな国、どうなっても知りません

 貴族が絶対的な権力を持つこの国で。

 平民の私が、どれほど聖女として努力を重ねても。


(この国で、私が認められることはない)


 それが報われる日は、決して来ないのです。



(報われるどころか……)

 

 新たな聖女が見つかったら用済みだと。

 まるで消耗品のように、私はあっさりと国から捨てられようとしています。




(本当に、私の代わりなんているの?)


 

 ふとした疑問を覚えます。


 魔物からの被害を抑えるために結界を張り。

 豊穣を祈念して各地で儀式を行いました。

 この国は、聖女の加護と共に繁栄してきたと言われています。


 だからこそ「聖女は王子と婚約する」などと、バカけたことが法律で定められているのです。



「私を追放して、この国は大丈夫なのでしょうか?」


 新たにフェルノーの婚約者となる聖女・レイニー。

 研究機関により聖女の力が認められた以上、たしかに聖女としての力を持つのでしょう。

 それでも国を守るためには、はっきり言えば力不足。


 光の術式の扱いには、少しだけ長けています。

 だとしても、それは国を守護できるほどの力ではありません。



 聖女の力――生まれ持ってしまったせいで、これまで役割を押し付けられて来ました。

 こんな力がなければ、国に売られることもなく故郷で平穏に過ごせたのだろうと恨んだことも。

 どうして私がこんな目に遭わされるのか、と嘆いたこともありました。


(それでも……。

 これは私にしかできないことだから)


 誰に認められなくても。

 「聖女」の肩書きに恥じないよう、この国のために力を振るうこと。

 それこそが私のささやかな矜持でした。


 私はどうしようもなく、この国を守護する聖女でした。




「『私を追放して、国は大丈夫なのでしょうか』だと?」


 面白い冗談を聞いた、とでもいうように。

 フェルノー王子とレイニーは、顔を見合わせてクツクツと私をあざ笑いました。



「貴様がいなくても、レイニーさえいれば国は回るだろう。

 魔力量も光魔法の適正も、貴様とは比べものにならないからな」


 残念ながら魔力量と光魔法の適正から、聖女の資質を測ることは出来ません。

 それは国を守護する中で、少しずつ身につけられるもの。

 聖女の勤めの過酷さは、身に染みて分かっています。


 この国に連れてこられた直後は、毎朝の魔力奉納だけでぐったりと動けなくなる程でした。

 今でこそ過酷な毎日の勤めも、辛うじてこなすことが出来ていますが。

 それはギリギリまで酷使され、聖女の力が成長したおかげでしょう。


 聖女の力に目覚めたばかりでは、あまりにも酷な話です。



「レイニー様だけでは、あまりに荷が重いと思いますが……」


 それは親切心から出た言葉。

 しかしフェルノー王子の解釈は別でした。



「ふん、何でもないような表情をしておいて。

 やっぱり人形聖女でも、国外追放は怖いのだな?」


「当然でしょうね。

 王子の慈悲に縋るしかない――惨めですわね」


 フェルノー王子たちから飛び出したのは、そんな見当外れの返答。

 私がいなくなったら聖女の勤めを継がないといけないということを、レイニーは理解しているのでしょうか?



「レイニー様は、聖女がこの国で何をするかご存知ですか?」

「平民のあなたに出来たんですもの。

 同じ力を持つなら私に、出来ない道理はありませんわ」


 にっこりとレイニーは微笑みました。



「レイニーは貴様とは違い、高貴な生まれだ。

 聖女として欠陥品だった貴様とは、格が違うのだよ」


 まるで話が通じません。


(聖女としては、欠陥品か……)



 私をいたぶるたびに、フェルノーは愉悦の表情を浮かべます。


 聖女として一人前になるために、どれだけの努力を重ねたか。

 この国のためにどれほど身を砕いてきたか。

 フェルノー王子は、何も知らないのでしょう。


 こんな国――どうなっても知りません。

 ここまで言って聞き入れられないなら、自業自得です。



(私はただの人形。

 命じられたことを、淡々とこなすだけのお人形。

 人形は泣かないし悲しまない)


 これまで心を守ってきた自衛手段。

 急速に心が冷え切り――私は説得を諦めました。

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