第30話 最終章 怪人が消える時2

 肉体に精神を戻すと、心臓の鼓動を強く感じた。強く波打っている。




《出るか》


《そうだな》




 力也も同じ状態のようだ。俺達は殻を破ることにした。




 バリバリバリ




 久しぶりの自由だ。身体を動かしてみる。違和感なく動かすことが出来る。変なところはないようだ。というのも、球で何か細工されているかもしれないという不安はあったのだ。


そして、周りを見ると、幹部連中が揃っていた。




「その姿は・・・・・・」




 キメラが漏らす。鏡が無いので見える範囲で確認する。まず、力也だ。俺も力也も同じ姿のはずだ。ほぼ元の姿の力也そのものだった。鎧を着ている。尻尾などはない。後ろに飾りのようなものもついている。よく仏像とかの背後にあるあれだ。色は、力也が赤で・・・・・・自分は白のようだ。




「お名前はなんて呼べば」




 ドラゴンが俺達に聞く。我々に意識が残っていると悟られるのはまずい。




「お前らはどうやって決めた」




 力也が誤魔化す。




「俺らは自分で決めました。能力診断で模擬戦をし、その中でふっと湧いてくるんです」




 タイタンが言う。模擬戦とは好都合だ。




「では我々も模擬戦をしよう。三人で来い。全力で構わない」


「「「はっ」」」




 こうして俺達は作戦通り、三大幹部と戦うことになった。




「ハル―ハル(よーい、はじめ)」




 下級怪人の合図で始まる。




《どうする》




 力也が聞いてきた。どうやら肉体の状態でもテレパシーは出来るようだ。




《まずは全力でぶつかるぞ》


《わかった》




 お互いに気を高める。三人はフォーメーションを取っている。精神体で浮遊していた時に確認したが、何やら入念に連携技の訓練を行っていたのを覚えている。


 と、こちらに向ってきた。




「キメラウイングカッター」


「ドラゴンガトリングパンチ」


「嫉妬の地割れ」




 攻撃を俺の方に集中してくる。各個撃破ということだろう。聡明な判断だ。


 地割れで体勢を崩して攻撃役がそれをヒットさせる。わかりやすい連携技だ。最初の風の刃を防ぐので手一杯になる。足場も悪い。なるほどな。




 ドフッ




 二射目のパンチが俺に当たることはなかった。力也が黙っているわけがないのだ。横っ腹を殴られてドラゴンが吹き飛ばされた。俺もただ、ガードするだけではいられないな。




 ダッ




 一足飛びで一気にキメラとの間合いを詰めて回し蹴りを食らわした。キメラは寸でのところでガードするが、勢いよく飛ばされる。




「嫉妬の大玉」




 と、タイタンが力也めがけて得意技を放つ。力也は飛び上がって避けようとする。が、玉は追いかけてきた。




《いくぞ》




 力也から指示が出る。俺は何も言わずに身構えた。そのまま力也がすれ違う。俺はタイタンの急所めがけて正拳突きを食らわせた。よく見ていたので的確に捕らえることが出来た。タイタンが吹き飛ばされる。


 と、いつの間にやらキメラとドラゴンが俺を挟んで攻撃してくる。ドラゴンの方も攻撃を予測していたのか軽傷だったようだ。




《右》


《左》




 俺は右のドラゴンを。力也は左のキメラを相手取る。相手の攻撃をいなして、今度は吹き飛ばさない連撃を加える。顎、腹、脳天、背中、を叩きつけ、両足を持ち斜め上へ放り投げる。力也も俺が投げた方へ放り投げている。




《十発は食らわせた》


《俺もだ。それくらいやった》


《決めるか》


《ああ》




 そう、俺達の作戦とは怪人を倒してしまうことだ。戦隊の代わりに倒せれば万事安泰である。俺達は自分を完全にコントロール出来ている。身体こそ怪人になってしまったが、心は人間のままだ。


 投げたものがぶつかり、下へと一緒に落ちていく。そこに二人で飛び上がる。




「ジェラシーウォール・酸」




 と、攻撃を加えようとしたら壁に阻まれた。壁は泥状で柔らかいため威力が削がれてしまう。いや、何より熱い。反射的に身を引いてしまう。飛び散った泥に振れた箇所もジュッと焼けた。手もヒリヒリしている。




「お二方。我々を殺すおつもりですかい」




 タイタンがゼイゼイしながら言った。




「いや、すまない。名前が思いつかなくてな」


「ああ。熱くなってしまった。すまない」




 俺と力也はしらばっくれた。




「もっと殺す気で来てくれ。なかなか思いつかない、な、力也」


「ああ、そうだな、幸治」


「貴殿ら、名前があるではないか」




 ドラゴンが切れ切れになりながら突っ込んだ。ああ、やってしまった。つい口が滑った。




「ともかく、続けるぞ」




 俺は問答無用の姿勢を取る。




「貴方達、私達を殺す気ね」




 キメラも切れ切れになっている。




「そう思うなら、必死に抵抗しろ」




 力也が冷たく言い放った。




「やられてたまるか」




 キメラが飛翔する。ドラゴンもタイタンもそれらしき場所へと移動した。




「「「トライアングル・ミュージック」」」


「絶望の投げキッス」


「エターナルナイトメアーズ」


「嫉妬の嵐」




 訓練で見た技だ。相手の動きを封じる広範囲技。俺と力也は避けきれなかった。が、動きこそ制限されるものの、動けないほどではない。ただ、俺達がまごまごしている間に三人は次の体勢に移っている。


「「「三大幹部の陣・改」」」


「ジュラップ」


「アップメア」


「一時怪人進化。デザップ。ウア―――――。絶望の天球」


「夢魔の爆大鏡」


「嫉妬の大王玉」




 三人が進化して、大技を繰り出す。




 ビュン




 凄まじいスピードでこちらに向ってきた。今の制限された中では上手く対応出来ない。




「シャー」




 ドフッ、ドフッ


 力也と二人で飛ばされる。そのまま同じ場所に落とされた。




《上だ》




 力也がテレパシーで叫んだ。その指示を受けて俺は上に身構える。




「「「ゼロ距離弾」」」




 大玉が降ってきた。逃げる暇はない。俺と力也はそれを受け止めようとする。




「「ふぐっ、ふぐぐぐぐ」」




 さすがの威力だった。大きさも力もスピードも連携技の構成も一点の隙も感じなかった。このままだと押し潰されるかもしれない。本気でそう思った。




《まずいな》




 力也が言う。




《ああ、まずい》




 俺は頭を巡らせるが、良い案が浮かばなかった。




《例のあれ、やるしかないな》




 例のあれ・・・・・・。球の中で打ち合わせたあれか。




《しかしこの状況では。まだ実践は初めてなんだぞ》




 あれ、とは球の中で話したことのある机上の空論だ。




《四の五の言ってられる状況か》


《それも、それだな。名前はどうする》




 こんな時に名前かと思うかもしれないが、言霊の力は必要だ。




《名前か・・・・・・。白と赤だから、紅白・龍虎の舞なんてどうだ》


《いい名前だな。よし行くか》




 そして一気に気を高める。




「「紅白・龍虎の舞」」




 全身の奥から力が湧き起こってくる。力は形となり鎧となる。肌身が見えなくなった時、その力が解放される。




「「変化」」


「赤龍」


「白虎」


「「うおーーーーーーーーー」」




 押され気味だった状態から押し返すようになる。いや、二人で押す必要はもう無い。




《力也、上を頼む》


《おう》




 最期に一瞬押し返し、玉と自分の間に空間を作る。連携コンボだ。上に蹴り上げ、下に殴り飛ばし、また上へ、下へ、玉を何往復もさせる。そして最後に、両方から挟み込んで大ダメージを与えた。最後の方は玉の回転も止まっていた。




「ぐふおおーー」




 タイタンが矛に変わった。




「くそーーーーー」




 キメラとドラゴンがやってくる。力也はドラゴン。俺はキメラを相手取った。




「ナイトメアガトリング」


「一極粉砕」




 力也は相手の攻撃を躱して背後を取る。そして全身を乗せた拳で相手の背中を貫いた。ドラゴンが矛に変わる。




「負けない、負けない、負けない」




 強化されてるだけあって、少し手強い。俺は力也の動向を横目で確認しつつ、敵の攻撃をいなして、隙を探っていた。と、ドラゴンが矛になった瞬間にそれは訪れる。




「そんな・・・・・・」


「アディオス。旋風力脚」




 二段すかしの回し蹴りで、力を込めた一撃を腹にかまして貫いた。




「そん、な」




 キメラも矛となった。


 こうして俺達と三大幹部の戦いは終わった。




《掃除してくぞ》




 力也が言う。




《わかってる》




 俺は静かに応えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る