第29話 最終章 怪人が消える時1

怪人が現れる時、それはいつも唐突だ


怪人が消える時、それもいつも唐突だ


僕らは怪人憎むけれど


それでもやっぱり大切だ


現れたら消えて欲しい


消えてしまったら寂しい存在


いつまでもどこまでも


ずっとずっと一緒にいようよ


君のことが好きだから


君らのことが大好きだから


さよならなんて言わせない


僕らはずっと輝いている




王の誕生待ち望み


生まれてこの方待ち惚け


愛する貴方にありがとう


哀する貴女にありがとう


これは怪人と人間の物語


悲しい哀しい「あい」の物語




怪人が現れる時、それはいつも唐突だ


怪人が消える時、それもいつも唐突だ


怪人はいつも壊すけれど


怪人はいつも作ってくれる


現れたら大いに怒って


消えてしまったら寂しい存在


いつまでもどこまでも


ずっとずっと創造しようよ


壊すのは好きだから


作るのも大好きだから


さよならなんて言わせない


この詩を捧げてありがとだ




王の誕生待ち望み


生まれてこの方待ち惚け


愛する貴方にありがとう


哀する貴女にありがとう


これは怪人と人間の物語


悲しい哀しい「あい」の物語




《力也、力也、聞こえるか》


《ああ聞こえる。なんだ》


《もうすぐだな》


《ああ、もうすぐだ》


《起きる前に少し良いか》


《ん。何がしたい》


《玲奈達の様子が見たい》


《そうだな。一緒に行くか》


《ああ》




 俺は今、力也とテレパシーを行っている。こんなことが出来るとは思わなかったが、最初、何の気なしに呼びかけてみたら、短時間会話出来ることがわかった。それからだ。時々こうして力也と会話している。力也とは波長がよく合うようだ。


 球の中では肉体は拘束されているが、精神の行き来が自由だった。つまり、世界を回ることが出来た。これまた短時間だが。


 二ヶ月前、玲奈達が負けたのは知っている。幹部達がこぞって臨時の異空間を作ったせいで、我々精神体でも人間界との往来は自由に出来なかった。よって俺達が回れた世界はこの世界だけだ。


 この世界は暗い世界だった。赤い月が輝き、闘争が繰り広げられる毎日だった。血肉に溢れ、たくさんの残骸――矛が落ちていた。更にその矛はどうやら一定時間が経つと怪人に再生するようだった。生まれた怪人はまた闘争を繰り返す。まるで地獄だった。


 つい先ほど、空間のロックが外れたような気がした。そこで精神体のうちに人間界の様子を見ようと思ったのだ。




《恵子の様子も見て良いか》




 と、力也が話しかけてくる。恵子。力也の彼女だ。




《ああ、なら先にそっちに行くか》




 そうだよな。想い人が心配なのは俺だけではないよな。そう思った。




《ありがとう》




 精神体になると色々なことがわかる。世界の理みたいなものだ。恵子を想うとその場所がわかるのだ。ただ、それには強い想いが必要なのだ。だから正確な場所がわかるのは力也の方だ。俺は力也に連れられて恵子の所へと向かった。


 いた。力也のマンションの部屋の前だ。チャイムを鳴らしている。




 トントントン。




「力也。出てきて。話をしよう」




 あれから三ヶ月以上は経つが、恵子はまだ力也に未練があるようだ。かなり悲痛な面持ちで戸を叩いている。




「いつもいつもうるさいね。そこの人は随分帰ってないよ」




 と、隣のおばちゃんが出てきてそう恵子に言った。




「随分っていつ頃からですか」




 恵子はそのおばちゃんに詰め寄る。




「知らないよ。三ヶ月くらいは見てないね」




 おばちゃんは煙たそうにしている。




「三ヶ月・・・・・・」


「あんまりうるさいと警察呼ぶからね。ささっと帰ってちょーだい」


「はい・・・・・・」




 そう言って、恵子はしょんぼりしながらその場を去る。




「またここに来てたのか」




 と、マンションの前まで来ると、一人の男が恵子に近付いてきた。随分と息を切らしている。探し回っていた様子だ。




「健司、何よ。関係ないでしょ」


《誰なんだ》




 俺は力也に聞いてみる。




《恵子の幼なじみだ》




 力也はそう答える。力也も感じているだろうが、健司は恵子のことが好きなようだ。精神体だからそういうものもわかってしまう。




「関係ないわけないだろ。恵子、君はもう力也さんを忘れるべきだ。もう三ヶ月以上経つんだろ。音信不通になってから。きっともう・・・・・・」




 健司はそこで顔を伏せた。




「もう、何よ」




 不安と怒りの混じった声で、恵子は反発する。




「警察も言っていたろ。もう諦めた方が良いって」




 健司はトーンを落としてそう言った。




「諦めるって何をよ」




 恵子は金切り声を上げる。あまりに大きい声なので、鳥たちが飛び立った。




「生きていることを諦めるんだよ。力也さんはもう・・・・・・この世にはいない」




 健司は弱くも強くそう言った。




「そんなはずない」




 恵子はそう言って、駆け去ろうとする。が、手首を健司に掴まれた。




「放してっ」


「放さない」


「放してよ」


「放したくない」


「何でよ」


「好きだから。君のことが好きだからだよ」


「はっ、何それ」




 毒気を抜かれたように恵子は大人しくなる。




「ずっとずっと好きだった。力也さんがいたから言えなかったけど、今なら言える。恵子、君のことが好きだ。僕と一緒にいて欲しい」




 健司君の気持ちもわからなくないが、今この状況でその告白は通らないだろうと思った。




《助け船がいるようだな》




 力也がそう呟いた。




「馬鹿じゃないの。私が好きなのは力也よ。あんたは幼なじみ。それ以上でもそれ以下でもない」


「馬鹿じゃないな。健司君が正しい」




 と、力也の肉声が響き渡る。




「力也」


「力也さん」




 恵子も健司も驚いて、声のする方をあちこち探す。




「ずっと連絡をしなくて悪かった。恵子。ご覧の通り、今の俺には肉体がない。すまないが、健司君の言う通りなんだ。俺のことはもう諦めてくれ」


「そんな・・・・・・」


「俺のことを愛してくれてありがとう。俺も愛してる。ただ、もう忘れて欲しい。健司君はいい人だ。君のパートナーとして不足はないはずだ」


「そんなこと言われたって、そんな一方的に言われたって」




 恵子はまだ納得出来ない様子だった。




「一方的なのはしょうがないだろ。こういう状況だからね。頼む、わかってくれ」


「そんな、そんな・・・・・・」




 恵子はすっかりしょぼくれていた。




「それから健司君」


「あっ、はい」


「君を見込んで頼みがある」


「はい・・・・・・」


「恵子を幸せにしてやってくれ」


「えっ、あっ、はい」


「俺よりも深く愛し、大切にして欲しい」


「ええ、勿論です。頼まれなくてもそうしてあげたいと思ってます」


「うん。ありがとう。これで未練はなくなった」


「行かないで」




 恵子が空に向けてそう言った。




「いや、行く。恵子。これは俺の最後のわがままだ。最後に聞いて欲しい」




 力也は優しくそう言った。恵子の方は俯いて、うんともすんとも言わない。




「では時間だ。どうか俺のことは忘れてくれ」


「力也さん」




 と、今度は健司が呼び止める。




「ありがとうございました」




 そう言って、健司は頭を下げた。




「礼を言うのはこっちの方だ」




 そう言う、力也の声はフェードアウトしていくようだった。




《いいのか》




 俺は力也に聞いてみる。




《ああ、これでいい。さあ、お前の方へ行こう》


《わかった。そうしよう》




 俺は行く前に二人の様子を少しだけ窺う。すると、健司が恵子の肩を抱えて




「今日はもう帰ろう」




 と言ってるのが見えた。






 俺は玲奈を感じながらその場所へと向かう。建物も見当たらず、木々がうっそうとしているところ。そこから玲奈を強く感じていた。ここだ。ここにいるようだ。




「ここ一、二ヶ月怪人来ないな」




 グリーンだ。服でわかる。二人で話しているようだ。




「そうね・・・・・・。良いことだけど」


「やっぱり、守人が道連れにしたんじゃ」


「そう思いたいわね。その方が守人も救われるし。でも油断は出来ない。幹部以外にも怪人はいるはずだから」




 どうやら、今は怪人が出ていないらしい。それもそうか。自分たちが来れなかったのだから。




「そうだな。でもさ、何も出てこなかったらどうなるんだろうな俺達」


「どういうこと」


「スーツも新調して三倍の力が出るようになった。拠点もシールドガーディアンって要塞を構えることが出来た。でも怪人がいないとな・・・・・・」


「暴れる機会が欲しいってこと」


「いやいや違う違う。お金だって無限じゃないでしょってこと。このまま本当に怪人いなくなったら俺達解散しちゃうのかなってこと」


「ああ・・・・・・、そうね。そうなるかも」


「そうなるかもって、それでいいの。玲奈は」


「怪人がいなくなったらならそれで良いんじゃない。そもそもそれを目指してるんでしょ」


「そりゃそうだけど・・・・・・。怪人が新人類だ―て話あったじゃん。なんか、それでいいのかなって」


「まあ、ね。でも仲良く出来るならもうしてるはず。出来ないから困ってるのよ」


「本当に仲良くなる方法はないものなのかなー。守人だって、幸治さんや力也さんだってそんなに敵対心があるわけじゃなかったし。むしろ助けてくれようとしていたし」


「それは、そうね・・・・・・」




 玲奈は反論しようとする口を、自分で収めた。


 ある。和解する方法はあるはずだ、と思う。




「お疲れさーん」




 イエローだ。




「お疲れ様」




 レッドだ。




「お疲れ様です」




 そして、背の小さめの青年がきっとブルーだ。なるほど、戦隊は常に五人という訳か。




「「お疲れ(っすー)」」


「玲奈さん聞いて下さい。今日、スーツの性能フルで活用出来たんです」


「そうなんだ良かったじゃない」


「いや、本当に凄いよ。こいつ小さいけどバネがあるだろ、それに機転も利く」


「帯人やられちゃったもんね」


「それを言うなよ」


「あんまり褒めないで下さいよ。たまたまです。帯人さんも手加減してたでしょうし」


「あははっ、なっ、機転が利くだろ」


「そうみたいね。でもまもる。敬語は良いわよ。確かに最年少だけど、チームワークに影響するから」


「いえ、敬語は使わせて下さい。その方がしっくり来ます。まだまだ経験の浅いひよっこなので。ああー早く怪人出ないかなー」


「こら、不謹慎だぞー」




 そうイエローが突っ込んだところで五人が笑った。なんだ楽しそうにやってるじゃないか。




 ウィーンウィーン




「東京、京都、大阪、福岡ニ、下級怪人ヲカクニン。東京、京都、大阪、福岡ニ、下級怪人ヲカクニン。至急向ワレタシ、至急向ワレタシ」


「いっぺんに四カ所も・・・・・・」




 レッドが呟く。




「嵐の前の静けさってやつだったのねー」




 続いてグリーン。




「わわっやばいよやばいよ」




 そしてイエロー。




「・・・・・・遂に実践か」




 ブルーは緊張しているようだ。




「OK.相手は下級怪人だけみたいだから、部隊を四つに分けるわよ。帯人は京都、達彦は福岡、星那は大阪、私と護は東京へ行くわ。良いわね」


「「「「ラジャ」」」」


「この場合、自衛隊も応戦してくれてると思うから、上手く協力して。被害を最小に押えるよ」


「「「「ラジャ」」」」


「解散」




 そうか、俺らがここにいるってことは、他の怪人もここに来れるってことだ。




《そろそろ、頃合いだな》


《ああ、わかってる》


《なあ、あまりのんびりはしてられないな》




 唐突だが、力也が言いたいことはわかる。




《ああ、そうだな》




 四散する戦隊達に後ろ髪を引かれながら、俺らは球に戻った。

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